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魅惑の花‘ダイヤモンドリリー’、オリンピックへの挑戦と夢 横山直樹

魅惑の花‘ダイヤモンドリリー’、オリンピックへの挑戦と夢 横山直樹

ダイヤモントリリーという花をご存じでしょうか。ヒガンバナ科ネリネ属の球根草花で、学名は、ネリネ(Nerine)です。10月下旬~11月上旬にかけて開花し、ネリネ・サルニエンシスという原種を元に改良された花弁がより輝く園芸品種群です。このお花のキラキラを一度見たら忘れられないほどの強い印象で、誰もがその不思議な魅惑に取りつかれます。そのダイヤモンドリリーをオリンピックブーケにする、という挑戦と挫折の話で、2020年を振り返りたいと思います。

ダイヤモンドリリー

2014年農水省のオリンピック関連事業として、ビクトリーブーケの研究開発の公募がありました。ビクトリーブーケとはメダリストたちにメダルと一緒に贈られる勝利をたたえる花束です。しかし、リオ・オリンピンク(2016)、ピョンチャン・冬季オリンピンク(2018)では、ブーケではなく、記念品になっていました。暑さ、寒さによる花束の難しさ、選手が持ち帰れずゴミになるからという、地球環境への配慮のために、ビクトリーオブジェに変更されました。

ダイヤモンドリリー

ダイヤモンドリリーを使ったブーケの試作

2020年の東京・オリンピンクでは、さまざまな議論が交わされた結果、生花のビクトリーブーケが採用されることに決まっていました。そして、その研究開発に応募して当選したのかがきっかけで、ダイヤンドリリーの開花調整への長い道のりがはじまりました。

ダイヤモンドリリーの髪飾り

和の装いにも合うダイヤモンドリリーの髪飾り

正直言うと、自分としては季節の花は、その一番の季節に咲けばよいと思っていました。しかし、こんな形でオリンピックに関われることがうれしかったことと、ダイヤモンドリリーは世界的に見ても認知度が低く、栽培にも時間がかかるため生産量も激減している中、これはまず認知度を上げるこれ以上にないよい機会だと思いました。

五輪カラーに染めたダイヤモンドリリー

五輪カラーに染めたダイヤモンドリリー

それまで世界的にも夏にダイヤモンドリリーを咲かせた報告はありませんでした。実は2014年以前から千葉大学園芸学部と共同研究により開花調整なと゛の研究開発を進めていましたが、夏に咲かせるという目標は立てていませんでした。高温の状態で維持しておくと休眠したままで管理できるのではないかとか、春から夏に急激に冷やして夏に咲かないかなどの仮定からさまざまな方法を試しましたが、ことごとく失敗。そこで大きなヒントになったのが、ニンニクの冷蔵貯蔵の論文でした。

 

見出したのは休眠中のダイヤモンドリリーの球根を凍らない極限の温度まで下げて管理することによって、1年近くもの間、花芽を動かさないようにする方法でした。2年間、千葉大学の研究用冷蔵庫で試験をして方向性が見えてきて、2016年には開会式である7月下旬に花を咲かせることに成功。その後は大量に調整するための実践訓練がはじまりました。関東地方(温暖地)では真夏の温度が高過ぎて、40フィートのコンテナを5℃以下に冷やすことが難しく、電気代もとんでもなくかかってしまうので、富士山麓の標高1000m近くで貯蔵させてもらうことに落ち着き、調整が可能となりました。

休眠から覚め花茎が伸びだしたダイヤモンドリリー

休眠から覚め花茎が伸びだしたダイヤモンドリリー

という経緯で、なんとか成功はしたものの、ビクトリーブーケの選考から落選。もちろんスポーツ選手でもすべての人が代表としてオリンピックに出られるわけでもなく、ましてや表彰台に立つことの難しさから考えれば、僕もその挑戦者の一人としては致し方ないこととは言えます。しかし選考が一部の関係者だけで水面下で行われ、関係した僕らにはまったく何も知らされずに発表となったことがとても悔しまれます。さらにオリンピック自体が新型コロナウィルスの影響で中止(延期)となり、ダイヤモンドリリーがオリンピックに関わること自体が幻のものとなってしまいました。

2020年夏に咲いたダイヤモンドリリー

2020年夏に咲いたダイヤモンドリリー

オリンピックは2021年に開催されるかもしれませんが、冷蔵庫で2年前から仕込んで開花調整をするため、来年はもう挑戦すら出来ない状況です。そのため涙を呑んで、横山園芸のオリンピックへの挑戦は終わってしまいました。しかし、ダイヤモンドリリーをもっと身近な花にしていきたいという私の挑戦は続きます。

 

ここで触れておきたいのは、ダイヤモンドリリーは花を咲かせるのが大変、みたいに思われている人がたくさんいるかもしれませんが、決して栽培が難しいことはありません。実生から開花まで6,7年などと、分球してからも3,4年は開花まで必要と、にかく増殖などに時間がかかるのが難点ではあります。でも、ちょっとしたポイントをつかめば誰もが花を咲かせることができます。

ダイヤモンドリリー
ダイヤモンドリリー

栽培のポイント

ダイヤモンドリリーの自生地は痩せている土壌で、岩場などに挟まるように生きています。そのため、適度なストレスを与えることが一番の開花への近道です。地面にそのまま植えたり、大きい鉢に植えると、花が咲きにくくなる傾向がありますので、やや窮屈な環境を作るため、小さめの鉢に植えるとよいでしょう。そして肥料の施しすぎ、水の与えすぎも開花しない原因になります。一度植えたら4年間ほどほったらかしておく程度で十分です。寒さに弱いため、霜よけ程度の防寒が必要です。

いかがでしたか。ダイヤモンドリリーに興味を持って頂けましたでしょうか?唯一無二の美しさを持つダイヤモンドリリー。それ故に失われてしまった自生地。僕の一番の夢と目標でもある、失われてしまった南アフリカの自生地の復活や保護を進め、現地南アフリカの人たちの認知度を上げて、現

地の人たちの産業につなげる。誰かが育て続けないと、本当にこの世の中から失われてしまい復活できなくなってしまう種類も多くあります。その責務と強い想いがあります。

今は、オリンピックへの挑戦がその土台になったと思っています。実は開花調整をすることで、見えてきた希望の光もありました。いろいろな時期に咲かせることが可能となったことで、原産国南アフリカに関連した時期に開花をさせてイべントなどに参加する目標もできました

南アフリカで咲くダイヤモンドリリー

南アフリカで咲くダイヤモンドリリー。自生地はほとんど残っていない

そして今年、南アフリカ大使館の協力を得て、ダイヤモンドリリー帰還プロジェクトを立ち上げることが出来ました。是非、みなさまのご協力をいただければ幸いです。

南アフリカ共和国の大使と私(横山直樹)

南アフリカ共和国の大使と私(横山直樹)

横山直樹(よこやまなおき)

園芸家・生産育種家。1978年東京都清瀬市生まれ。クリスマスローズ、シクラメン、ネリネの生産、育種で知られる生産農家。「NHK趣味の園芸」講師、英国シクラメン協会日本支部代表を務めるほか、各種園芸団体での園芸の啓蒙活動、全国各地での講演会を通じ、園芸、植物と触れることの楽しさを伝える活動も盛んに行っている。趣味は登山や植物散策、いけばな、あらゆる植物の栽培など。植物にかかわることすべてから感性を磨く。植物で多くの人を笑顔にすることがライフワーク。キャッチフレーズは「チカラコブ」。

◎ダイヤモンドリリー南アフリカ帰還プロジェクト

https://diamondlily.org/

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