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バラをもっと深く知る㉔ 耐病性+樹勢=丈夫

バラをもっと深く知る㉔ 耐病性+樹勢=丈夫
バラ

「耐病性が高いから丈夫で育てやすい」。ここ4~5年よく言われる言葉で、とくに「耐病性」が愛好者の意識に強く残り、バラを選ぶときの大きなポイントの一つになっています。しかしバラの「丈夫さ」は、「耐病性」だけではありません。「樹勢」も大きなポイントです。両者が揃っていてこそ、「丈夫な品種」となるわけです。(写真:耐病性がとても高く樹勢が強い‘パートナー’(アンドレ・エヴ))

1.耐病性

葉が病気に強い

「耐病性」は英語で言うとdisease resistance。diseaseは「病気」、resistanceは「抵抗力」を示します。「耐病性が高い」というとき葉が病気に強いことを示し、樹全体の丈夫さを示すものではありません。

バラは日本においてはかつて「宿痾(しゅくあ、持病)」とまで呼ばれたくらい高温多湿の夏に葉に黒い点ができる黒星病にかかりやすく、その病気によって葉を落としがちです。葉を落とすと、光合成ができなくなり生長を制限し、したがって花が咲きにくくなります。

乾燥した欧米に比べ高温多湿の日本でのバラの葉の主な病気は、芽出しの低温多湿の時期に葉や蕾が白くなるうどんこ病と、高温多湿の夏に発生する、一般に「黒点」とも呼ばれる「黒星病」が代表的なバラの病気で、これらは糸状菌によるいわゆるカビの一種です。

そこでその品種の葉が病気にかかりにくいことを「耐病性」が「高い」、あるいは「強い」と表現されています。

バラ

左:うどんこ病  右:黒星病

「耐病性」は本来育種の技術用語

この「耐病性」は最近専門家だけでなく一般愛好者の間でもよく口にされますが、本来は育種の技術用語。海外の育種家は「これは専門技術用語だが…」と、まず前置きしてから話しをする場合が多くあります。

高くなってきた耐病性

環境意識の高まりとともに、ヨーロッパではドイツでは1980年代から、フランスでは2005年ごろから、バラの育種上「耐病性」の向上が図られてきました。現在は公共の公園では薬剤散布を行えないことから、ますます耐病性が高い品種が生み出されていて、新しい品種ほど耐病性が高くなっています。

日本においてもここ5年くらいに新発表された品種の多くは耐病性がとても高くなってきました。中には海外の最強のバラ並みかそれ以上の品種もあります。

 

「耐病性」について、理解しておきたいことをいくつかあげてみましょう。

新しい品種ほど耐病性が高い

気をつけなければいけないことは、「耐病性が高い」という表現は、あくまで相対的なこと。少し前の品種でカタログやネットで「耐病性が高い」とあっても、必ずしもいまの段階において「高い」とは言えない品種も多くあります。

外と日本 気候環境によって病気の種類が違う

もう一つ理解しておきたいのは、海外と日本の気候環境の違いにより、発生する病気の種類が違うこと。それによって同じ「耐病性」という言葉を使っても、病気の種類が違うことがしばしばあります。ヨーロッパの気候は、温暖化して年々夏が暑くなっているといっても乾燥しています。発生しやすい主な病気は、べと病とさび病。海外の現地でべと病やさび病にかかりやすい品種は、いくら日本での人気品種であっても、販売中止になることがあります。

また海外のカタログで「耐病性が高い」とされた品種で、日本で試作の上発表されたばかりのバラでも、必ずしも「高い」と言い切れない品種もあります。逆に日本で黒星病が出ても、海外では発生しない品種もあります。気候環境による違いです。

耐病性が高い品種でも病気にかからないわけではない

「耐病性が高いから病気にかからない」。とても勘違しやすいことです。「かかりにくい」ということで、どんなに耐病性が高い品種でも、葉が病気にかかり、葉を落とすことがあります。例えば常に湿っているような栽培環境下では、いくら耐病性が高い品種でも病気にかかりやすくなります。

「耐病性が高いこと」は、「薬剤散布の手間が軽減される」こと

バラの栽培環境を風通しをよくしたり、雨にあてないなどのケアでも病気にかかりにくくできます。また天然由来成分の製品で病気を防除する方法もありますが、もっとも手軽でカンタンなのは、殺菌剤を散布して病気を予防し、かかったら治療薬を散布することです。

 

「耐病性が高い」ことで「育てやすい」ということは、手間の軽減につながります。従来は葉が病気にかかりやすい品種が多かったため、葉をきれいに保つための頻繁な薬剤散布がバラ栽培では奨励されました。毎週、あるいは10日に1回などです。耐病性が高い品種だと月に1~2回で済み、薬剤(殺菌剤)を散布する手間がかなり軽減できるわけです。また病気の心配をあまりしなくてすむため、「育てやすい」ということにつながるものです。

なお飛んでくる害虫には、別に殺虫剤で防除することが必要になります。

バラ

2.樹勢

樹の伸長力、回復力、咲き続ける力

この「耐病性」、確かに樹の“丈夫さ”の一つのバロメーターですが、それだけでは“丈夫さ”は語ることができません。並んでチェックしなければいけないのが「樹勢」です。日本で行われる国際コンクールでも花や香りの評価に加え「耐病性(黒星病・うどんこ病耐性)」とは別に「樹勢」が、樹の評価の中のチェックポイントにあります。

 

「樹勢」は英語でvigrous。直訳すると「活発」「丈夫」です。具体的には〇枝の伸長力と理解されがちですが、たとえ葉を落としてもすぐ芽吹くような〇「回復力」もよく言われます。枝は伸びなくても短い枝に〇花を咲かせ続けるパワーなどの意味でも使われています。

なお「丈夫さ」には「樹勢」とは少し違うのですが、「樹の硬さ」(木質部が硬い、厚い)もあります。

バラ

左:枝の伸長力 右:葉を落としてもすぐ芽吹く回復力

「耐病性」と「樹勢」の両者が揃っていてこそ、本当に「丈夫なバラ」と言えるでしょう。

具体的な種類と栽培法から

「耐病性」「樹勢」をバラの具体的な種類の典型から見てみましょう。もちろん中間タイプはさまざまあります。

耐病性には劣るが樹勢があるHT

一般に葉はあまり丈夫ではないけれど、樹勢に優れるのが従来のHTやFLです。だから頻繁に薬剤散布を行って葉を落とさないようにすると同時に、切り戻すことによって新しい芽を伸ばして「常に葉がある状態」にするのが、これらの栽培法とされてきました。

バラ

‘プリンセス ドゥ モナコ’(メイアン)

耐病性はそこそこ、樹勢があり枝が伸びるシュラブまたは木立性シュラブ

そこそこの栽培手間で咲く、いまのバラの主流です。

シュラブは「系統」と捉える見方と、半つる性という樹形からの見方の両者があります。系統では親がHTならば子もHTとなりますが、最近はシュラブどうしの交配、またはオールドローズや切花品種と交配されるなど、交配の多様化が進んでいます。そこで従来の系統に規定されない幅広い「その他」を、みな「シュラブ」と一般に呼んでいます。

樹形からは、従来から枝が斜めにふわっと長めに伸びる品種を「半つる性」「シュラブ」と呼んできました。多くは春は木立、秋に主に斜めに枝が長く伸びる品種です。

 

これら品種は伸びた枝を残せば小型のつるバラとしても仕立てられます。またそのような交配によって作出されたバラで、最初から木立性の品種や、枝が伸びても木立に仕立てるような品種は「木立性シュラブ」と呼びます。そこで花は大きく木立性であれば「HTタイプ」、中輪であれば「FLタイプ」と呼びます。

 

樹勢があり、加えて耐病性は向上し月1~2回の散布で葉をキープする品種も多いので、殺菌剤散布の回数も従来のバラに対して比較的少なくて済みます。ただし伸びた枝をどこで剪定するかという「剪定技術」が必要になり、手間は「そこそこ」必要です。

枝が伸びるシュラブ

バラ

‘ザ ミル オン ザ フロス’(イングリッシュローズ)

バラ

‘パブロワ’(デルバール)

バラ

‘ペネロペイア’(ロサ オリエンティス)

【木立性シュラブ】

株は直立性・木立性のシュラブは、花が大輪ならば「HTタイプ」、中輪ならば「FLタイプ」と呼ばれ、単に「HT」「FL」と表示されることもあります。下は、耐病性が最強クラスで大輪の直立性シュラブ‘ティップン トップ’(コルデス)。

バラ

ティップン  トップ(コルデス)

コンパクトシュラブ

枝が伸びて咲く品種の海外品種の中には、秋に花が咲きづらい品種が多々あります。そこで近年は〇耐病性が高く〇枝が伸び過ぎずに短い枝に連続して咲きながら咲き疲れしない丈夫さを持った品種が増えてきました。これらの多くは株が1m前後で、総称して「コンパクトシュラブ」と呼ばれています。

バラ

‘フレーズ’(ロサ オリエンティス)

ローズペイザージュ

もともと公共の場での利用を目的に育種されたタイプで、栽培にもっとも手間がかからないタイプ。葉の耐病性が高く薬剤散布回数は少なくて済み、剪定は冬に伸び過ぎた枝を切るだけ。肥料も少なめ。樹勢があって連続して花を咲かせ、離弁性(セルフクリーニング性)が良く、花がら摘みもあまり必要のないタイプです。手間がかからないためつい「ノーメンテナンス」と理解されがちですが、少しの手入れは必要な「ローメンテナンス」のバラです。

バラ

小型のローズペイザージュ‘ピンク ドリフト’(メイアン)

耐病性に樹勢も加えて

バラは花を観賞する樹木ですから、まず「花」が気に入ったことが第一。その美しさが人の心を惹きつけます。

加えて、自分がバラにどれくらい手間をかけられるかで選ぶことが大事です。最近のバラはほとんどが「四季咲き」。ほかの花木にはあまりない性質です。四季を通じて花を咲かせようと思うと、ある程度は手間をかけることは必要です。

その主な手間には鉢植えの水やりはもとより、「花がら摘み・切り戻し・夏と冬の剪定」「葉を保つための薬剤散布」「枝を伸ばし株を生長させるための施肥」…やることはたくさんあります。薬剤散布の手間の回数を減らせる「耐病性が高い」ことだけが、手間がかからず育てやすいことににはならないでしょう。

 

そうは言っても、いまやある程度以上「耐病性」が高くなければ、ケアの手間が追い付きません。最近のバラは「耐病性」がかつてより格段に向上し、手間少なく気軽に育てられるバラが増え、愛好者には育てやすくなっていることは確か。そのチェック項目の一つが「耐病性」であることは間違いありません。加えて「樹勢」も気にして、バラを選んでみましょう。

玉置一裕

玉置一裕

バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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