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バラをもっと深く知る㊵ HTは単花咲き!?

バラをもっと深く知る㊵ HTは単花咲き!?

HTの原型とされる‘ラフランス’(1867年)。いまの表現で言う「中大輪」の花が房咲きになる

単花咲きと房咲き

「HT(ハイブリッドティ)は単花(たんか)咲き、F(フロリバンダ)は房(ふさ)咲き」。

かつてのバラの栽培書にこう記載され、最近の本やネットのバラの種類の解説でも時折見かける表現です。

単花咲きは一つの茎に一つの花が咲くこと。房咲きは複数の花が咲くことを示し、HTは「四季咲き大輪種」、Fは「四季咲き中輪種」と言い換えられます。

一茎に一花きりっと咲いた‘オスカル フランソワ’(2004年)

房咲きのF‘アイスバーグ’(1958年,上)と‘ベビー アイスバーグ’(2020年,下)

かつてアメリカで‘クイーン エリザベス’が1954年に発表されたとき、「大輪で房咲き」なので「グランディフローラ」(系統記号Gr)という系統もできたことはありましたが、いまはあまり言われなくなっています。

いま「系統」は「スタイル」「タイプ」

そもそも園芸学上では、親がHTならその子であるバラの品種の系統はHT。Fなら系統はFです。

最近は交配系統が複雑化し、シュラブの血も混じって、両親ともそうでない品種が多くなってきました。

かつては単花咲き品種も多かったのでしょうが、いまのバラはほとんどが房咲きになります。

苗のうちは株に力がなく単花咲きですが、樹姿ができてきたら房咲きに。

力のない下の方の細めの枝は単花咲きになることもありますが成木になっても単花咲きの品種は、ごく少ないでしょう。

 

その品種が〇大輪〇四季咲き〇木立性であれば、敢えてHTと表示されていることも。花と樹について分かりやすくするためです。

しかしそれは「スタイル」であって、「系統」ではなく、「HTスタイル」「HTタイプ」と言っています。その条件に「房咲きであるかどうか」は含まれていません。

栽培法によって「単花咲き」に

「HTが単花咲き」という背景には、とくに日本で「剣弁高芯咲き」が好まれたこともあるでしょう。

切花で行う栽培のコンテストではとくに一輪の美しさが重んじられます。しかも6~7部咲きの状態の美しさを評価します。

この“バラらしい”咲き方は先が尖った花弁が外側に反り返り、花芯が盛り上がって、花弁の裏表を交互に見せる造型。

一つの花の横に何もないと周囲に空間ができ、その空気感の中での一瞬の止まった美しさを表すものです。

咲き進んで花芯も見せると「へそが見える」と言って観賞価値がないものとされました。

この咲き方にするために推奨された方法が、「側蕾摘み(そくらいつみ)」です。

房咲きであがってきた茎の脇につく蕾を小さいうちに摘み取って、中央の花にパワーを集中させます。

一説には、大輪菊の栽培法に由来するものと言われます。

表弁の赤と裏弁の白を見せるバイカラーのHT‘ラブ’(1980年)

庭で見る場合は花数が多い方が楽しめる

単花咲きとするか房咲きのままとするかは、品種の個性~咲き方によっても違うでしょう。

剣弁高芯咲きはともかく、丸弁で房前咲きのまま一茎でブーケにできそうなバラは、あえて側蕾を摘んで単花咲きにする必要はないでしょう。

近くで花一輪を見るときと、少し離れて庭で見るときでも違います。庭では房咲き品種は房咲きのまましておいた方が、花数が多くなり、長く楽しめます。

人の頭くらいの大房に咲くこともある‘カインダ ブルー’(2015年)

花は少し小さめ。一輪で見るより庭の中で房咲きで本領を発揮する‘アプリコット キャンディ’(2007年)

単花咲き(上)だと周囲にエアリー感。房咲き(下)になっても、咲き進んだ花が背景の役割を果たしている‘ヨハネ パウロ 2世’(2008年)

系統の栽培法にこだわらない

その花がどのような状態で咲いたとき“きれい”と思うかは、人によって違います。

したがって側蕾を摘んで単花咲きにするか、房咲きのままとするかは、個人の自由。

ただし避けたいのは「HTの栽培法は単花咲きとすること」だと決めつけて、栽培することです。

バラはどんどん変わり、咲き方も楽しみ方もさまざまになってきました。同じHTスタイルのバラでも品種の個性があります。

その個性が生きるよう、従来行ってこなかった方法で咲かせてみると、また新しい美しさが発見できるかもしれません。

著者紹介

玉置 一裕

バラの専門誌『New Roses』編集長。

『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。

また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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