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見れば見るほど不思議な植物  -カンアオイ-

見れば見るほど不思議な植物  -カンアオイ-

2020年2月、つくば市にある筑波実験植物園でカンアオイの展示がありました(すでに終了)。私は、カンアオイの花が20以上も見られる、こんな機会はまずないぞと意気込んで見に行ってきました。

かなり珍しい機会であることは間違いありません。

多目的温室

では、なぜこれだけの種類が見られたのでしょう。まずは、研究のために数多くのコレクションを持っていることがあります。そして、主に春と秋に開花する種類が多いのですが、花が長持ちする性質を利用して、低温で花を持たせたり、早く咲かせたりという開花調節にも努力されたからです。その辺のことは、ホームページ内のスタッフブログで研究員の奥山さんが解説されています。

カンアオイの展示風景

カンアオイの展示風景

さて、カンアオイと聞いて、すぐに植物の姿形が浮かぶ人は、なかなかの野草通ですね。まったく知らない、名前は聞いたことがあるかな、くらいの方が多いのではないでしょうか。

露地で咲くカンアオイ(東京都で撮影)

露地で咲くカンアオイ(東京都で撮影)

そして、アオイとつくくらいですから、徳川家の葵の紋と関係があるのでは、と思われた方はさすがです。徳川家の家紋「ふたばあおい」はもちろん、フタバアオイから来たもので、それゆえ冬でも葉が枯れないことから、寒葵=カンアオイと呼ばれるようになったのです。

 

徳川家の葵の御紋、フタバアオイ

徳川家の葵の御紋、フタバアオイ

このカンアオイ、ウマノスズクサ科カンアオイ属の植物で、学名はAsuraumです。昨今、植物多様性という言葉をよく聞きますが、世界でアジアに62種、その内50種が日本に自生しているカンアオイ、日本でもそれだけの固有種があり、多様性に富む植物として、その最たるものの一つかもしれません。

カンアオイ 関東から東海にかけて分布する一般的なカンアオイ

カンアオイ 関東から東海にかけて分布する一般的なカンアオイ

日本の固有種の分布図(展示図から)

日本の固有種の分布図(展示図から)

日本での分布も、北から南まで各地に展開していますが、例えば鹿児島県奄美大島と徳之島、このエリアだけで11種の固有種、アサトカンアオイ、ナゼカンアオイ、オオバカンアオイ、ミヤビカンアオイ、トリガミネカンアオイ、カケロマカンアオイ、フジノカンアオイ、グスクカンアオイ、ハツシマカンアオイ、タニムラアオイ、トクノシマカンアオイがあるそうです。みな個性的な姿をしているのですが、オオバカンアオイを除く10種は、先祖が同じ固体と言われています。一つの種からどう展開、進化していくのか、多様性への過程が興味深いですね。

フジノカンアオイ

フジノカンアオイ このエリアで最も多い種。その分花の形態や自生する環境も多様性に富む。特に花が大きいものを、オオフジノカンアオイという

トクノシマカンアオイ 

トクノシマカンアオイ 徳之島の石灰岩質の照葉樹林下に自生する

ハツシマカンアオイ

ハツシマカンアオイ 徳之島に分布。春に長い花柄の先に花をつける

タニムラアオイ

タニムラアオイ 1994年に新種として記載。徳之島の固有種で日本のカンアオイの中で唯一白い萼裂片を持つ

ミヤビカンアオイ

ミヤビカンアオイ 奄美大島の常緑樹林下に自生。個体数が少ない

トリガミネカンアオイ

トリガミネカンアオイ 奄美大島の限られた場所に自生する。花の大きさは世界最小級

その多様性は、葉の変化もありますが、もっとも変化が多く、違いがわかるのがその独特な花です。正確に言うと花と言われているのは花弁ではなく、萼(がく)が筒状になった萼筒で、花内部を完全に覆い隠しています。中にはちゃんと雄蕊や雌蕊といったものもあって、昆虫に花粉を運ばせてタネを拡散する植物でもあります。

イワタカンアオイ

イワタカンアオイ 愛知県東部から静岡県西部に自生

そして、花と言われる部分の写真を見て、あの花の姿が浮かびませんか。そう、世界最大の花、ラフレシアです。カンアオイも同じ仕組みなので、花のイメージが似ているのです。

ラフレシアの花にイメージが似ている。写真はフジノカンアオイの花

ラフレシアの花にイメージが似ている。写真はフジノカンアオイの花

カンアオイのような一見とっつきにくそうな植物でも、よく見ていく、何度も見ていくうちに、かわいらしさとか、美しさとか、味わい深さとかを感じられるものです。

 

ナンゴクアオイ

ナンゴクアオイ 鹿児島県の宇治諸島および大隅諸島の黒島に分布、萼裂片の両面に毛が密生する

ムラクモアオイ

ムラクモアオイ 種子島に分布、クワイバカンアオイによく似る

コシノカンアオイ

コシノカンアオイ 長野県、新潟県から秋田県までの日本海側に分布。かなり大きな花をつける。日本産の中で知られる限り唯一の4倍体種

オトメアオイ

オトメアオイ 富士箱根地方に自生する。カンアオイには珍しく盛夏に開花する

それに、この地味で目立たないカンアオイ、実は昔から好事家がいて、珍重されてきました。そのため、一部での乱獲もあり、そして最大の要因でもありますが、近年の開発や自然環境の変化で、自生環境が悪化して、個体数が減ってきているという事実があります。

ヤクシマアオイ

ヤクシマアオイ 別名オニカンアオイ、屋久島の常緑樹林帯に分布。園芸用の採取などで個体数を減らしている

ミヤコアオイ

ミヤコアオイ 本州西部と四国に分布。関西近郊で普通に見られる。ギフチョウの食草として知られるが、鹿の食害等でギフチョウとともに個体数を減らしている

フクエジマカンアオイ

フクエジマカンアオイ 近年発見された希少種。長崎県五島列島に分布

トイミサキカンアオイ

トイミサキカンアオイ 九州南部の限られた場所に分布。非常に個体数が少ない

日本の植物多様性を表す代表的な植物、カンアオイ。野生種の保護の必要性はありますが、まだまだわかっていないことも多く、分類にしても研究の必要性がたくさんあります。

サンインカンアオイ

サンインカンアオイ 西日本の日本海側に分布するカンアオイ類を言うが、しかしその実態は不明

オモロカンアオイ

オモロカンアオイ 石垣島と西表島に自生。名前の「オモロ」は沖縄の古い民謡に由来

センカクアオイ

センカクアオイ 尖閣諸島魚釣島自生。オモロカンアオイに似るが、雄しべ雌しべの数が異なる

一般の方々は、日本にこういう植物があることを知り、実際に見て親しむ、育てられる株があるのであれば、育てる楽しみを味わうのもいいでしょう。とにかく多くの人が関心を持つことが、植物多様性の理解や保全に繋がっていくと思います。

オオカンアオイ

オオカンアオイ 台湾に自生するカンアオイ。台湾ではもっともよく見られる種

キウイカンアオイ
パンダカンアオイ

上・キウイカンアオイ、下・パンダカンアオイ、いずれも中国産のカンアオイだが、その花形のおもしろさから人気がある。鉢植えで育てられる(埼玉県で撮影)

そういった意味で、普段からの収集と研究がなければなかなか出来ない、こういった展示を行える筑波実験植物園には、今後も大いに期待したいですね。最近、ショクダイオオコンニャクで話題になりましたが、春からは他にもいろいろな植物に出会えますよ。クレマチスの品種保存でも知られています。ぜひ、一度出かけてみてはいかがでしょう。

筑波実験植物園の温室内で行われたカンアオイの展示

筑波実験植物園の温室内で行われたカンアオイの展示

*筑波実験植物園

筑波実験植物園

生きた多様な植物を収集・保全し、絶滅危惧種を中心とした植物多様性保全研究を推進している国立科学博物館の植物園です一般公開区でもさまざまな季節の植物が見られるほか、充実したコレクションなどが展示会などで見られます。

※現在、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために臨時休館(園)しています。再開等の情報についてはホームページをご覧ください。

 

開園:9:00~16:30(入園は16:00まで)
休園:毎週月曜日(祝日・休日の場合は開園)、祝日・休日の翌日(土曜・日曜日の場合は開園)、年末年始(12/28~1/4)
入園料:一般・大人320円、高校生以下無料
アクセス:つくばエクスプレスつくば駅からバス。駐車場有
所在地:〒305‐0005 茨城県つくば市天久保4-1-1
お問い合わせ:029‐851‐5159
利用やアクセスの詳細についてはホームページをご覧下さい。
http://www.tbg.kahaku.go.jp/index.php

 

取材・構成・文・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。

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