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「一色一香(いっしきいっこう)」に感じる四季

「一色一香(いっしきいっこう)」に感じる四季

~2018年は日本のバラのエポックメイキングな年①

2008年ごろ。日本で次々と、さまざまなバラが生まれてきました。海外のバラには無い特徴~秋遅くまで咲き続け、花色は四季を通じて微妙に変化、花形は繊細で巧緻、強くは感じないけれど心地よい香り、葉は小さめでマットな質感、枝は細く株は小ぶり~テイストはそれぞれ違いますが、すべて日本人育種家の感性により生み出されたもの。

2018年は、多くの人にいまも愛されている日本のバラが発表されてから10周年・5周年を迎えます。エポックメイキングな年です。

 

この品種が2008年にデビューしたときは、誰もがその神秘的な雰囲気に魅せられました。写真を見て、イベントで実際の花を見て、海外の育種家たちも注目。‘ガブリエル’(河本バラ園/花ごころヘブンシリーズ)です。香りは、河本のバラに特徴的なグリーンのさわやかさに、ローズの甘さ、シトラスを含むティーがほどよく入り混じり繊細。「天上の香り」は、かくやとばかり。中央にうっすらと紫が入る花をより引き立てています。

ガブリエルの春花

‘ガブリエル’の春花。先が尖った花弁を波打って重ね、花色は白めで清楚

ガブリエルの秋花

秋花は中央を内に抱えて外側の花弁を外側に大きく広げなお神秘的

‘ガブリエル’は小さくマットな葉や直立する株姿も特徴的で、樹の性質も「神秘的」。大事に育てたいバラです。花の美しさを追求する育種家・河本純子さんの感性が生み出したもの。バラの花の美しさが最大限に表現された、いわば“アーティスティックなバラ”の代表的な品種といえるでしょう。

 

ことさら目立って注目されたことは無いものの、いまに至るまで多くの人に育てられているのが‘ミスティ パープル’です。2003年に発表され、2018年で15周年のロングセラー。細い枝先に、グリーンを含む蕾から藤色の波状弁咲きに。香りはローズにフルーツが混じり、ティー成分も含まれます。HTでもシュラブでも無いこのバラ、当時は異質な感じ。その後次々と発表された河本純子さんの作品独自のスタイルです。

ミスティ パープル

長く愛されている‘ミスティ パープル’

すばらしい芳香! 「モダンローズのさまざまな香気成分を含む」と蓬田バラの香り研究所の科学分析により解析されたのが‘薫乃(かおるの)’の香り。育種した武内俊介さんは「幸せの香り」と言います。この品種も2008年発表。海外のバラには時折ありますが、日本のバラでこんなに“香水のような”香りがするバラは、それまで数えるくらいしかありませんでした。‘芳純(ほうじゅん)’など香りのバラを世に出してきた、京成バラ園芸の育種の伝統によるものでしょう。大きめに感じるふんわりとした花はアプリコットをベースに淡いピンクも混じり、咲き進むにつれて淡く。よく繰り返して咲きます。

薫乃(かおるの)

香水のような芳香のある日本のバラ‘薫乃(かおるの)’

日本独自のカテゴリー、FGローズ(フローリスト&ガーデナーローズ)が発表されたものもこのころ。一部切花用品種がガーデン用として販売(あるいは逆)されるケースはありますが、最初からのコンセプトとしては海外には事例が少ないものです。FGローズは切花としてもガーデン用苗としても販売され、両用に楽しめるバラ。京阪園芸F&Gローズは、最初は2007年作出の和ばら(Rose Farm KEIJI作出)の‘みやこ’‘てまり’から。京阪園芸FGローズのブランドネームが発表されたのは2008年でした。その年作出の‘あおい’は茶色味のあるモーヴ色。和の花色です。春は明るめ、秋は深い花色に咲きます。小中輪花で大房咲きに。繰り返して咲き、切花にしても花保ち良く、四季を通じて身近に楽しめます。自然な状態でも剪定など手を入れても咲く、“栽培の自由度が高い”品種です。

あおい

和の色で大房咲き・花保ちの良い‘あおい’

それから5年経った2013年春から放映され、ローズソムリエ小山内健さんが大活躍したNHK TV「趣味の園芸」の「ローズレッスン12カ月」。番組でも登場し話題になったのが‘かおりかざり’です(2012年発表)。はんなりとした風情のオレンジアプリコットの花からは、フルーツを感じる香り。科学分析ではこの香りはダマスクの香りと、拡散し強く感じるティー・バイオレットの香り。ベースにキープする成分が少ないため、ふわっと香って、はかなく消えます。まさしく花名の通り。花の印象・花の名のイメージ・香りの感覚がよく合った“雅(みやび)”な花の表現です。

かおりかざり

‘かおりかざり’。当時「オレンジ色はあまり売れない」と言われた中で新鮮に感じられた

その2013年春には、ロサ オリエンティスが代表作‘シェエラザード’のデビューと同時に発表されました。ロサ オリエンティスは「日本の暑い夏でもよく育ち良い花を咲かせるバラの作出を目指す」バラの家・木村卓功さん育種のブランドネームです。‘シェエラザード’はあでやかなピンク色が、先が尖って波打って重なる花弁に描かれています。強くは無いけど、強く感じる芳香。よく繰り返して花を咲かせ、小さな葉・細い枝は伸び過ぎずによく茂り、まとまりよく育ちます。その年の秋にはオデュッセイア’を発表。‘シェエラザード’は翌2014年発表の‘ダフネ’とともに、現在はヨーロッパでも販売されて人気を集め、海外に誇る、いまの日本を代表するバラの一つともなっています。

シェエラザード

‘シェエラザード’。ヨーロッパでの販売名は‘プリンセス オリエント’

あれからもう10年、5年。以降毎年新品種が次々と発表されていますが、発表から10年にわたって栽培され続けるのは、その「花」に魅力があればこそ。愛好者は、身近に栽培して季節ごとに表情を変えて咲くその花の一輪、あるいは株全体に咲く花にあらわされた、ひとつの「色」(しき・色やかたち)と「香り」に、無意識に森羅万象の生命の不思議さ・輝きを感じているのではないでしょうか。四季の変化に富む日本の風土で培われた、日本人ならではの感性です。

 

樹の性質については、かつて発表され、総じて“性質がおとなしい”と言われた日本のバラの中にも、丈夫な品種は多くあります。加えて最近の日本のバラ育種は海外の動向と合わせるように、「育てやすさ」が意識されるようになってきました。

 

次回は、その後発表された、最近の日本のバラをみてみましょう。

玉置一裕

玉置 一裕

バラの専門誌『New Roses』編集長。

 

『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

この記事で紹介された植物について

バラ

バラ

学名:Rosa /科名:バラ科 /別名: /原産地:アジア、ヨーロッパ、中近東、北アメリカ、アフリカの一部 /分類:落葉(ツル性)低木 /耐寒性:中~強/耐暑性:中~強

気品あふれるその華やかな姿から、花の女王とも呼ばれるバラ。

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