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バラをもっと深く知る③ 樹の性質の理解が栽培上達の近道 海外のシュラブローズ

バラをもっと深く知る③ 樹の性質の理解が栽培上達の近道 海外のシュラブローズ
バラ

宙に浮くように、バラの花が草花と一緒に咲き乱れている。花々は日差しを浴びて陰影を描き、そよ風を受けてかすかに揺らぐ。花の香りと草花の香りが入り混じって庭全体が香るよう・・・こういった光景の主役のバラは、みなシュラブローズです。

 

シュラブローズは、HTやFLに対してガーデニングブームとともに意識されてきたバラの「系統」。日本では20世紀後半からまずオールドローズ、そしてイングリッシュローズへと関心はうつり、その後フレンチローズが紹介され(2004年ギヨー、2006年デルバール)てきました。これらはほとんどがシュラブローズです。このほかにもイギリスやフランス、ドイツ、アメリカなどからさまざまな育種家の品種が登場し、いままさに世界的に全盛を迎えているバラの系統と言っても良いでしょう。

 

 

さまざまに捉えられる「シュラブローズ」

バラでは、系統を重視します。しかし「シュラブローズ(S)とは何か」というと、ひとことでは言い表せません。HT(ハイブリッド・ティー)は「四季咲き大輪」、かつては一つの茎に一花をつける単花咲きで房咲きになるGr(グランディフローラ)ろ区別されることもありましたが、いまはほとんどが房咲きです。FL(フロリバンダ)は「四季咲き中輪」ですが、これには必ず「房咲き」であるという条件がつきます。共通するのはいずれも「木立性」であることです。

 

ところがシュラローズは樹姿がさまざま。木立性もあれば、半つる性もあります。枝が少し伸びる半つる性の品種は誘引すれば、つるバラとしても仕立てられます。いったいシュラブローズ(またはシュラブ)とはナニ? これにはさまざまな視点からの見方・評価が混じり合っています。
ギー サヴォア

ギー サヴォア

深く剪定すれば大きめの自立シュラブに、伸びた枝を誘引すればつるバラにもなるシュラブローズ‘ギー サヴォア’(デルバール)

 

A.バラの系統から

いちばんわかりにくいのが「木立性シュラブ」という表現でしょう。専門家はそう言い、また別の会社のカタログには「HTタイプ」「FLタイプ」と書いてあります。系統上はシュラブローズだけど、HTやFLのように木立性であるという意味です。この点をつき詰めていくと、交配親の系統とかいうことになります。それを探求することは、それはそれでとてもおもしろいことです。交配親も含めて同じ品種をバラ業界の専門家の間では「これはHTだ」「いやシュラブだ」など、年中議論しています。

 

B.樹形から

またバラの業界では全般に木立性のことを「ブッシュ」と言うことがあり、対して半つる性品種を「シュラブ」と言うことがあります。そこで系統上のシュラブ(S)と混同して、「この品種はシュラブだから、半つる性でなければいけない」という声が出ることもあります。一般に「大きくなる樹木をtreeトゥリーに対して、shrubシュラブは株元から幾本もの茎を立ち上げる潅木・低木を意味する。ブッシュも同様の潅木の意味に使われるが、茂みの意味もある」・・・正解は園芸学上の定義におまかせしたいと思います。

 

C.樹の性質と栽培という視点から

栽培上もブッシュとシュラブの境目もあいまいです。バラならベーサルシュートを出し、シュートで更新していくのは従来からのHTやFLなどの「ブッシュ」に多く、最近の品種は枝が硬くなってシュートをあまり出さずに樹になっていく。最近の品種はHTやFLのような木立性でも「シュラブ」が多い・・・と考え出していくとキリがありません。

 

D.マーーケティング上の視点から

例えば半つる性の品種とHTを交配した銘花‘アイスバーグ’は、「FLの代表的品種」と言われます。確かに四季咲き・中輪・房咲きというFLの条件をみたします。しかし樹はシュートで更に新するというより、年々樹になっていくタイプ。いま言うところの「シュラブ」に近い感覚があります。これには、アイスバーグ’が生まれた60年前の1958年はFLが全盛時代。「そんなときにこの品種がシュラブだと言ったら見向きもされなかっただろう」という意見があります。

 

HT・FL(とくにHT)を「近代の育種家が追求した最高の結果」という視点からみたら、‘アイスバーグ’はFLでなくてはなりませんし、事実FLを代表する品種として認識されています。またバラを“育種資源”として特に大事にし、スピーシーズ・初期オールドローズを大事にする立場からすると、HT・FLはともかく、シュラブローズは「その他」として捉えられがちです。

 

しかし‘アイスバーグ’は、それがどの系統だろうと、銘花であることに変わりはありません。

アイスバーグ

‘アイスバーグ’(コルデス)。HMsk‘ロビン フッド’とHT‘ヴィルゴ’を交配した「フロリバンダ」

「スタイル」で理解

要は現実が先。バラの育種家たちは、よリ良い花・より育てやすい樹のバラを創ろうとさまざまな交配を行うわけですから、花も樹姿も多様になるのは当然のことです。共通点はありますが、花姿・樹姿含めてバラづくりの考え方は育種会社・育種家それぞれごとにまったく異なります。最初から目的を定めて育種する場合もありますが、多くの場合、系統(カテゴライズ)はその結果です。現実にフランスのバラ企業の中には最近、あまりはっきりとは系統表示をしていない場合も多くあります。

 

「バラは育種家が自然を相手に創り上げたクリエイティブな作品」と位置づける「バラの美学」という視点からは、HT・FL・Sなど表示される「系統」は、「スタイル」と捉えたいと思います。観賞方法も加えると次のようになるでしょう。

 

  • HT:大きな花を身近で観賞する。栽培法はある程度きまりがある
  • FL:中輪房咲きの花を何本もバラ花壇に植え、鮮やかな色彩感覚を楽しむ。栽培は同上
  • シュラブ:花はもとより株全体に咲く姿を観賞する。庭では草花と一緒であればベスト。栽培は自由に

 

「規定演技」ではなく「自由演技」

さらに同じシュラブ系統でも育種家ごとに出来上がった作品の雰囲気は変わります。それは育種家の花や樹姿、開花や樹の機能に対する育種観や、感性の違いの表れ。提供者にとって花も樹も多様であることは、育てる側にとって同じ。例えばHTやFLがある程度定まった作法で育種され、観賞方法・栽培方法もある程度定められた方法で楽しむ「規定演技」であるのに対し、シュラブローズは育種家も自己のクリエイティビティを自由に発揮でき、愛好家もどのように育てても、楽しむこともできる、フリースタイルの「自由演技」のようなものであるとも言えるでしょう。

 

そこで、育種家によって「ブランド」という考え方が出てきます。その「ブランド」を近年では最初に、とくに強く意識させてくれたのが、オールドローズの美~カップ咲きやロゼット咲き、芳香など~に、モダンローズの四季咲き性・花色の多様性をもたらしたイングリッシュローズです。

イングリッシュローズ

日本でとくに人気の高いイングリッシュローズ‘ジュード ジ オブスキュア’。内側は黄色に少し茶色が混じるバフイエロー、外側は淡い黄色と表現される花色の深いカップ咲き。フルーティな芳香(ときおりシトラスの混じるグアバと甘口の白ワイン)。やわらかな樹姿で草花ともよく馴染み、「もっとも優雅な姿のイングリッシュローズの一つ」とされる。後ろの赤紫のバラは‘カーディナル ヒューム’(ハークネス)

 

耐病性はあり、樹勢はあるけど、日本の秋に咲きづらい~枝が伸びるタイプ

さてとくに海外のシュラブローズ全般に共通する樹の性質として、次の点があります。

 

  • 葉の耐病性がHTやFLに比べて高い。耐病性は年々高まっている
  • 樹勢に優れる

 

しかしとくに秋遅くまで花が咲くことを求める日本の愛好者にとっては、デメリットも。秋に枝が伸びすぎて、秋花が咲きづらいという点です。

 

ヨーロッパでは早くから寒くなるので、日本のように晩秋~初冬まで花を観賞する習慣がありませので、中には日本の「秋」に花をつけないような品種があります。最近のヨーロッパの品種は、日本での耐病性や耐暑性に加え秋の開花の性質の試験もされてから発表されていますので、このようなタイプは大分少なくなってきました。

 

【秋に枝が伸びて咲きづらい品種の栽培上の対処法】

栽培上次の対処法があります。

  • 夏剪定はするが、そのときに施肥をする場合、チッソ分の多い肥料は与えない
  • 夏剪定を早めして、もう一度9月末~10月に弱めに剪定をする。または秋遅めにごく弱く剪定。すなわち枝の伸びる勢いをそいで、花を付ける方向にしむける。
クイーン オブ スウェーデン

樹は直立性で上を向いて咲くが、秋に枝が伸びて咲きづらい‘クイーン オブ スウェーデン’(オースチン)。秋に二回剪定するか、少し遅めに短めに切って咲かせる

 

一般的な栽培法(地植え)の要点は次の通りです。

【肥料】

・冬の元肥は有機質中心に与える。追肥はとくに与えなくてもよい。(鉢植えは追肥が必要)。

【薬剤散布】

・葉をきれいに保つのなら、殺菌剤は月1~2回、種類を変えて

・殺虫剤は害虫の発生の都度随時

【剪定・切り戻し】

・太く出たシュートの花は咲かせてもよいが、ほおっておくとその枝にのみ勢いが集中しほかの枝が枯れこみやすい。ほかの枝とバランスをとって、高さを抑える

・花がら摘みは行い、花が終わったら花房の下で切り戻す

・その場合は伸びた枝の元から2~3芽を残して剪定を繰り返して管状の枝としていく。外芽で切るか内芽で切るかはどんな樹姿にしたいかによる

・成木になったら冬剪定は、ある程度深くてもOK

・シーズン中の切り戻しは、花は伸びた枝の先に付くので、どれくらいの太さの枝に花を咲かせるか見極めて対処することが大事。楊枝の太さ、鉛筆の太さなどと表現される

 

 <初期生育に注意>

同じ品種でも目的によって、初期生育の対処法が違います。例えば大苗を植えた場合①最初は蕾をとって樹の充実を促す②最初から深く剪定して低い位置からの分枝を促す、の二通りの方法があります。ただし最初から深切りする場合は、その品種の枝がある程度太めで樹勢があることが条件です。枝が細めの品種は、浅めの剪定の方が無難でしょう。苗の状態によっても違います。秋に既に芽吹いた苗を購入した場合は、冬剪定で細い枝先だけを切って、翌年春も充実した枝に付いた花だけを咲かせます。

 

なおヨーロッパでは剪定は、成木になるまではじっくりと自然に育て、成木になったら刈り込み鋏やヘッジトリマーで丸く刈り揃えていることをよく聞きます。日本国内で同様の方法で、冬剪定も夏剪定も行っているのが、大阪府泉南市のイングリッシュローズガーデンです。葉がよく茂るので、鋏で芽を確認しながら切っても刈り込んでも、咲いたかたちはほぼ同じ。枝1本1本にそんなに神経を遣って剪定しなくても良いタイプとも言えるでしょう。

メアリー ローズ

秋の‘メアリー ローズ’(オースチン)。大阪府泉南市のイングリッシュローズガーデンで

最初は蕾を取っって~耐病性に優れ、細い枝にも花を付け開花連続性に優れるタイプ

最近増えてきたタイプです。前記の最初から枝が伸びるタイプと異なり、細い枝先にも花を咲かせ、繰り返してとてもよく咲く反面、枝がなかなか伸びないタイプです。

 

こちらは、大苗の場合は植え付けたら翌春は充実した枝のみに付いた花を咲かせ、その後は秋まで蕾をソフトピンチし続けることが、樹姿をつくるために必要です。新苗の場合も春花だけにして、その後秋まで蕾をとり続けて樹の充実をうながします。最初にこの作業を行わないと、株が小さいままで花を咲かせ続け、なかなか大きくなりません。またある程度年数が経ってから深い位置で切り戻しても、枝が伸びてくることはあまりありません。とくに「つるバラ」と表示される品種は望む大きさになるまで蕾をとり続けないと、大きくすることはできません。

レイニー ブルー

‘レイニー ブルー’(タンタウ)。自然樹形は小型の横張りシュラブ

品種により違うケア

このようにシュラブローズは、「剪定」が一つの大きな栽培上のポイントです。株姿には品種それそれ固有の美しい大きさはあります。株を大きくすれば花数は増え花も大きくなります。逆にコンパクトにすれば花は小さくなります。小さい株に花をたくさん咲かせようと思うと、それなりの剪定テクニックが必要になります。これらの点を理解すれば、望みの姿で咲かせることができるのもまた、シュラブローズの栽培上のおもしろさです。

 

各ブランドの人気品種ごとにポイントをあげてみましょう。

バラ

レディエマハミルトン

‘レディ エマ ハミルトン’(オースチン)。目立つ花色の花は赤紫色の出芽から濃緑になる葉や赤い茎との対比がシック。フルーティに感じるティーの香り。樹がコンパクトで枝は細め、長いシュートもあまり出ないので、剪定は浅めに

ボレロ

ボレロ

‘ボレロ’(メイアン)。白いカップ咲きの花からはフルーティな強い香り。細い枝先によく花を繰り返して咲かせる。苗が若いうちからもともかく蕾をつけるので、春一番花以降は、株がある程度の大きさになるまでは蕾を取り続ける。ある程度の大きさになったら深く剪定してもよい

ナエマ

ナエマ

‘ナエマ’(デルバール)。桜ピンク色の深いカップ咲き。フルーティフローラルの強く甘い香り。片親はHTなので、太く伸びた枝先に花を咲かせる。自立型シュラブとするか、つるバラにする場合は、枝を横にねかせても出た細い枝先には花が咲かない。段切りにして、太めの枝先から花を咲かせる

マルク アントンシャルポンティエ

マルク アントンシャルポンティエ

‘マルク アントン シャルポンティエ’(ギヨー/マサド)。中輪で香り高く、シュラブとしても木立としても育てられる品種が多いギヨー/マサドの品種。この品種も生育初期はあまり深く切らずに、蕾を摘んで生育を促す

ペイズリーアビイ

ペイズリーアビイ

‘ペイズリー アビイ’(ハークネス)。ハークネスの品種は樹の特徴が系統ごとに、特にはっきしている。赤い中輪波状弁花。枝が半つる状によく伸びるようになってきたら、深めの剪定を繰り返して樹姿をつくっていく

ブルーフォーユー

ブルーフォーユー

‘ブルー フォー ユー’(ジェームス/ワーナー紹介)。赤紫から次第に灰色味が強くなっていく。ピンクの花や白っぽい花が混じることも。ほぼ木立性で、太い枝がまっすぐ伸びるので、ある程度成木になったら冬剪定は深めの剪定で。なおこの品種が発表されたころ(2007年)から、「FL/S」と系統表示される品種が、時折登場するようになった。

 

 

(次回に続く)

 玉置一裕 

玉置一裕

バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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