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チェルシー・フラワー・ショー2019
チーム“Kampo no Niwa”ゴールドメダルへの軌跡 白井達也

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チェルシー・フラワー・ショーで、初挑戦で初の金賞を受賞した柏倉一統さんと佐藤未季さんの挑戦、その一部始終を現地でともに挑戦してきたのが、チーム“Kampo no Niwa”(漢方の庭)の施工主でもある白井達也さんです。白井さんにゴールドメダル受賞の現地での舞台裏を寄稿してもらいました。

 

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完成した“Kampo no Niwa”

 

昨年、2018年10月初めだったでしょうか。柏倉一統さんと佐藤未季さんから正式にチェルシー・フラワー・ショーでの施工の依頼の相談を受けたのは。

実はこの仕事を受けるかどうか悩みに悩みました。私のチェルシーでの施工経験は9件。他のガーデンショウを合わせれば10件以上の経験があるものの、これまでは一職人としてのプロジェクト参加。今回はコーディネーター及び施工主です。よって柏倉さんと佐藤さんがチェルシー初挑戦であることと同時に、私にとってもこのプロジェクトは初挑戦でした。

 

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ゴールド受賞直後の二人

写真:(RHS / Luke MacGregor)

施工開始まであと4日

熟れた柿のような褐色に錆びているはずのコルテン鋼が、まだ黒光りしているのを目にしたのは施工開始4日前。チェルシー施工の、ドタバタ劇の幕開けでした。

その日、柏倉さんと佐藤さんと共にわれわれの資材置き場へ一緒に行きました。二人が日本にいる間にわれわれが選別した、小川を形成するためのリクレイム(再利用)の石を高圧洗浄しながら、石組みのイメージをしてもらうためでした。大袋二つにたっぷりと入った石を並べてていねいに洗浄します。「この石いいね、あの辺に使ったらいいですね」といった具合に、石一つひとつと向き合いながらの作業が進みました。

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石に高圧洗浄をかける柏倉さんと佐藤さん

 

時間が空いたので、そこから車で15分ほどの村にあるブラックスミス(アイアンのゲートやフェンスなどを作る工房)を訪れることにしました。このブラックスミスにはKampo no Niwaには欠かせないコルテン鋼のリルやレイズドベッドのエッジの製作を頼んでありました。この工房に仕事を依頼するのは初めてでしたが、イギリスで著名なガーデンデザイナーも利用している工房であるという事が依頼を決めたきっかけでした。

到着して親方の案内でヤードに通され、そこで目にしたものは……、前述の褐色のコルテンではなく、黒々としたコルテンでした。「4日後にはチェルシーの現場が始まります。5日後には運送会社が鋼材を取りに来ますが、それまでに褐色にかわるんですか?」すると、「いやー、ミルスケール(転圧整形する際の熱でできる薄い黒い膜で錆を遅らせる)ができているし、雨に晒したいところだけど、雨がふらないからねえ」と親方。「じゃ、ミルスケール削り取って酸化を早めてもらえますか?」「いやー、そんなことしいてる時間はないからねぇ。しかも、明日明後日と休暇で遠出するからぜったいできない。ヤードの鍵貸してあげるから好きなように使っていいよ」。われわれ一同唖然。親方の開き直りに空いた口がふさがらず、怒りを爆発させたかったが、ここで社長の機嫌を損ねてしまえば、すぐに始まるチェルシーの施工に影響するかもしれないのでぐっと我慢。施工の準備で頭がいっぱいだったが、施工主である私、オーティス(= Otis Robert)とウィル(= Will Harrison)、の三人がシフトを組んで、鋼材のミルスケールを削って錆びさせるべく、サンディングマシーンをかけ、水をかけ、乾燥させてまた水をかけるという作業に施工開始までの三日間を費やすことにしたのでした。

 

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サンディングした後水をかけて数時間経過の状態のコルテン鋼

 

こんなトラブルと向きあいながら始まったチェルシーの施工でした。ここで、時系列が前後しますが、柏倉さんと佐藤さんに施工の依頼を受けた頃の話に戻ります。

 

 

プロジェクトに参加とスポンサー

9月の半ば、一通のメールが飛び込んできました。チェルシー・フラワー・ショウ参加のための審査に応募したという佐藤さんからでした。佐藤さんとは、私が以前勤めていたAdam Frost Design という会社(6年ほど前)に未季さんが研修生としてやって来た頃からの知り合いです。アダム・フロストは、これまで8回チェルシーに出展(うち7回金賞)しており、私はそのほとんどの施工や植栽に関わっていたため、その経験から連絡をくれたのでした。

 

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会場で配布されたKanpo no Niwa のパンフレット1~7ページ

 

チェルシーで庭を出展するには多額の資金が必要です。多くの場合、企業や団体、地方都市の公的機関などが各庭のスポンサーになるのが通常です。でもKampo no Niwaは違いました。Facebookなどを利用したクラウドファンディングや、寄付金により集められた資金で出展することになったのでした。この庭の正式な名前が決まる時点で300件ものスポンサーが集まり、「Kampo no Niwa 300 Sponsors」という名前になりました。施工が開始された頃には400を超えるスポンサーに協賛していただくことになりました。メディアやSNSでも公表されている通り、Kampo no Niwaをつくるために、必要経費を含めて2000万円もの資金が必要でした。どんな形であれ2000万円という金額は2000万円の価値に変わりがないのですが、一つの企業から提供された宣伝のための資金と、400の企業や人々から集められた心のこもった資金では、正直、より重みが違います。

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パンフレットの8~11ページには、スポンサーの名前が載っています。これが重みです。
(イラスト・デザイン=チームヤムヤム)

 

 

庭のコンセプト

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二人が暮らす北海道で育つ薬草が主な植栽のkanpo no Niwa

 

Kampo no Niwaのコンセプトをざっくりと説明すると以下の通りです。北海道で育つ薬草が主な植栽で、魯班尺(ろばんじゃく)という風水を元にした尺を用いてレイアウトされています。また、日本人デザイナーということで、見る側(主にイギリス人)からは庭のどこかに日本的テイストが期待されることは必須です。仮に日本人がいない、もしくは日本のことをよく知らない施工チームがこの庭を造ったらどんな庭になるのだろうか、などいろんな思いを巡らせているうちに施工に前向きになってきました。

では、一人親方である自分が施工主になるためにはどうしたらいいのかを考えました。独立する前に働いていた造園会社は、先述のアダムの庭を一手に請け負っていた会社でしたが、訳あって数年前に解体されました。その会社に勤めていた経験があり、私同様一人親方的な業務形態を取っている知り合いをあたることにしました。それが、共同施工主になったオーティスとウィルでした。オーティスはランドスケープアーキテクトでありながら、ランドスケーパーでコミュニケーション能力に長け、交渉ごとが得意です。ウィルはまだ30歳前ですが職人歴10年以上。彼が造園のことを右も左もわからないころからの知り合いで、根っからのフラワーショウ(施工)好きです。とあるガーデンスクールでランドスケープの講師もしています。

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左から白井、となり前がオーティス、後ろがウィル

 

この二人に施工主に加わってもらう同意を得て、自分、オーティス、ウィルで構成された3人のチェルシープロジェクトチームが結成されました。それは2018年11月初めでした。結成後、すぐに半年後に行われるショウに向けて施工の検討に入りました。半年の準備期間は、決して十分とは言えません。第一の難関は植物の手配でした。ショウに合わせて植物を最善の状態に育ててもらうために、デザイナーによっては7月にはナーセリーと契約を終え植物を押さえています。Kampo no Niwaはその名の通り、漢方の植物を使った庭です。しかもデザイナー二人の出身地である北海道で育つ薬草という、探し始める時点でのハードルが高いのです。そして、植物の手配の他に庭を構成する資材の検討や、施工方法の検討、事務系の仕事もたくさんあります。

 

植物の手配

原っぱの四葉のクローバーを集めるかのように簡単ではありませんでした。植物に強いオーティスが連日、ナーセリーに電話をしてストックの有無を聞いて回りました。「北海道で育つ薬草」の流通量が少ないことと、あったとしても、11月では5月の本番に向けてショウクオリティの植物を提供してくれるナーセリーが少ないのです。そんな中、われわれに神の手を差しのべてくれたのが、イギリス・ハーブグローワーの第一人者であるJekka’s Herb  Farmでした。今年1月中旬の二人のイギリス訪問時にジェッカさんのナーセリーを訪れました。

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Jekka’s Herb Farmにてジェッカさんと

 

佐藤さんがプロジェクトのコンセプト等を説明したあと、プランツリストをジェッカさんに見てもらいました。「これはできる、これは種から、これはストックある、これの代わりにあれはどう?これはどう?」という具合に、親身になって相談に乗ってくれて、トントン拍子でジェッカさんに育ててもらう植物が決まっていきました。

「うちの植物はヒーター使わないから、間延びしてないしっかりした植物だからね。クオリティーは保証しますよ」

という心強いお言葉ももらいました。ジェッカさんの娘で、十勝千年の森のプロジェクトに関わったこともあるハナさんも打ち合わせに同席し、皆ジェッカさんの特製ハーブティーを片手に和やかな打ち合わせでした。ここで手に入らなかった植物は、ほかのナーセリー数件にかけあって調達し、樹木は樹木専門の生産者を訪れて、樹形やサイズを確かめながら決めていきました。

 

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樹木専門のナーセリーで満面の笑顔の柏倉さん(左)と佐藤さん(右)

 

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柏倉さんと佐藤さんが来英中に行ったミーティング風景

 

マテリアル選定、工法、ディテール

雪が覆う春先の北海道(十勝地方)の風景からインスピレーションを得た庭。ペービング(敷石)を割くように流れる小川は、雪解け水が大地を流れる姿をイメージしています。その水が、石やコーテンスティールからミネラルを吸収し、植物に循環されます。

1/20スケールのモデルを用いて施工の検討をする日々。コンセプトをまもりつつ日本らしさをさりげなく表現しながら、イギリス人にも素直に受け入れられる素材は何だろう。13日という限られた工期で仕上げるためにはどうしたらいいか、会場の限られた作業スペースに効率よく資材を搬入するためにはどうしたらいいか。ショウ終了後の解体も念頭に、柏倉さんと佐藤さんと、あるときは電話で、あるときはビデオ通話で相談しながら施工方法や資材、一部ディテールの変更も検討しました。

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石材とパーゴラのサンプル

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ペービング(敷石)のサンプルを見る佐藤さん

 

先述の通り、普段はそれぞれ独立して仕事をしている、オーティス、ウィル、私は、日中は現場で忙しいので夜な夜なチェルシーの仕事をしました。3人でミーティングをするときは夕方6時頃からオーティスの事務所に集まり、KFCのチキンをほおばりながら打ち合わせを始め、夜中1時、2時まで議論することもしばしば。結論が出ないままミーティングが終わり、話し合いは次回に持ち越しされることもありましたが、いろんなアイディアを出し合い、プロジェクトが現実化していくプロセスはとても楽しくワクワクしたものでした。また、仕事がうまく捗らない時は、まだ会ったことがない300人のスポンサーの顔が夢にでてくることもありました。(続く)

 

 

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 白井達也 Profile
(しらい たつや)
ガーデンデザイナー、ランドスケーパー
イギリスでガーデンデザインを学んだ後、デザインするには現場を知らなければならないと感じ、イギリスの造園会社で研修。日本の造園会社にて数年勤務を経て再び渡英し、ランドスケーパー兼デザイナーとして就職した後独立。在英13年。2019年、チーム“Kanpo no Niwa”で施工を務めゴールドを受賞。

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