バラをもっと深く知る㊶葉が決める花の印象 その①オールドローズ

オールドローズは花だけでなく葉の魅力も大きい。
浅緑の葉に、絞りの花が明るく映えるロサ ガリカ ウェルシコロル(ロサ ムンディ)
機能面だけでなく美観にも注目
大きな葉から小さな葉。浅緑色から深い緑色。マットな質感だったり光っていたり。かたちは細長かったり丸かったり。葉脈が目立っているものや鋸歯が目立つものも。バラの葉は実にさまざまです。
葉は光合成を行い株の生長を促すためにとても大事なもの。葉が病気にかかると葉を落とし生育に障害がでます。
そこで近年はうどんこ病・黒星病など病気に侵され葉を落とさないよう、葉が病気にかかりにくいこと(耐病性が高い)が求められています。
それは栽培するにあたっての「樹能面」の価値観と意識と言えるでしょう。
その反面、「美観」はとても大切。
ヒトが衣服によって顔の印象が変わるように、花を引き立てるのは葉です。
まず目に入り意識されるのは「花」ですが、葉は意識していなくても視界に入っていて、花の印象に大きな影響を与えます。
葉はオールドローズの大きな魅力
自然は変化と多様性に満ち溢れています。植物も同じ。どんな植物もそうですが、花も葉も、従来から知っているものと「違った個体」を見つけたときは、とてもうれしいもの。
バラの黎明期、愛好者たちはそうやって「新しいバラ」を見つけ、入手し、名をつけて愛好していました。
その違いを描いたのが画家。例えばピエール・ジョゼフ・ルドゥーテの『バラ図譜』を見ると、一見してそれぞれの違いが分かります。
気に行ったバラの絵をみつけると、まずその空気感についぼ~っと見入ってしまいます。
さらによく見ると、花だけでなく葉や茎もよく描き分けられています。

レタスのような葉が特徴のケンティフォリア‘ブラータ’。ルドゥーテの『バラ図譜』にも描かれた。
オールドローズは、日を追って日差しが明るくなり、芽吹き、飾り萼のある蕾がたってくるころになると、ワクワクします。
そしてふわっと枝を伸ばして咲き、はらはらと散る~写真家によっては花だけでなく葉を多めに撮り、その空気感を表現する人がいます。
葉は、オールドローズの魅力の大きな要素だと言ってよいでしょう。
いまのバラは、何代にもわたって交配が重ねられたもの。
そのオリジナルとなった原種や交雑種など、代表的な品種からオールドローズの葉をまず理解しましょう。
さまざまなオールドローズの葉
オールドローズの葉の特徴をよく表すのは、初期のオールドローズ。
一般的に浅緑の小さめでうすめの葉。枝は細くナチュラルな印象です。



浅緑の葉に紅色の花が映えるロサ ダマッセナ(上)、ロサ ガリカ オフィキナリス(中)と、小さめの浅緑の葉が整った花を引き立てるG‘ベル イシス’(下)
アルバローズは灰青緑のマットな質感の葉で白い花とともに清楚な感じ。
ルゴサローズは、葉脈がはっきりと出ます。


ボッティッチェルリの『ヴィーナスの誕生』に描かれたと言われる‘ロサ アルバ セミプレナ’(上)と、楕円形で葉脈がはっきりとして、枝には細かいトゲが多いロサ ルゴサ(下)
ティーローズは、小中くらいのやや細長い葉。



茎が赤く上品な感じの‘レディ ヒリンドン’(上)と、少し硬い感じの葉の‘アルシデュク ジョゼフ’(中)、ティーローズながらダマスクの強い香りがある‘フランシス デュブリュイ’(下)
チャイナローズの葉も小中くらいの大きさの中くらいの緑から濃緑。

早く咲き、四季を通じて咲き続ける‘オールド ブラッシュ’
その後交配が進んで四季咲き性や花の良さが追求されたハイブリッド・パーペチュアル。
一般に葉がうどんこ病に弱いと言われますが、薬剤散布でフォローして咲かせます。

独特のシックな花が浅緑の葉に映える。いまだに同種の花が登場せずファンの多い‘バロン ジロー ド ラン’

硬質な浅緑の照り葉で葉脈は目立たない。原種のナニワイバラ(ロサ ラエヴィガータ)(上)

1917年発表の‘マーメイド’は、沖縄原産のロサ・ブラクテアタ(カカヤンバラ)の交配品種(ハイブリッド・ブラクテアタ)。
小さな照り葉。印象派の画家モネのジヴェルニーの館にも植えられている。
カラーリーフのバラ
原種や交雑種の中にはカラーリーフもあり、庭づくりに役立ちます。

ごく小さい葉に班が入る。「斑入りテリハノイバラ」「五色バラ」などとも言われるロサ ルキアエ ヴァリエガータ。

グレイッシュな葉のロサ グラウカ(ロサ ルブリフォーリア)
よく観察しよう
ご紹介したのはごく一部。このほか、サンショウバラやショウノスケバラなど、さまざまな葉を持つバラがあります。
また、栽培環境によっても葉の大きさや色は多少変化しますが、その品種(種)の基本的な特質は同じ。
とくにオールドローズは花だけを見たり葉の丈夫さを意識するのではなく、花と葉、茎、全体の株姿、香りなど、植物体すべてを、素直な目で“見る”ことが大切でしょう。
そうすると、いにしえの人がそのバラを見たときと同じ感覚を、時代と空間を超えて味わえるかもしれません。
(次回「いまのバラの、国やブランドによる違い」に続く)
著者紹介
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。