バラをもっと深く知る㊷葉が決める花の印象 その②HT~近年の海外のバラ

フルーティフローラルの甘い香りの‘ナエマ’(デルバール1998年)。
葉の縁が外側に反り返るが、これは病気ではなく特徴であり個性。
大きな花には大きめの葉
HT全盛のころ、花色の発色や大きさ、とくに日本においては整ったかたち「剣弁高芯咲き」で咲くことが追求されました。
病気に強いなど樹能面はあまり考慮されず、日本では週一回の殺菌剤散布で葉を保つか、剪定によって新しい葉を出して“咲かせる”ことが当たり前でした。
美観上は花が大きければ葉も大きめ、花が鮮やかな色であれば葉は照り葉であるとバランスがとれます。

鮮やかな赤色の花のHT‘イングリッド バーグマン’(1983年ポールセン)は長い人気品種。葉は大きめの照り葉。一般的に赤バラは色素のせいか葉も濃緑。
ところが年月が経つにつれ、「花」だけでなく「葉」も意識されてきます。
近年海外のバラ関係者に実際に聞いた話と、海外で生まれた品種を中心にご紹介しましょう。
葉をめぐる3つの証言
証言① 国によって葉色の好みが違う
フランスに試作品の中から日本での販売候補品種の選抜に出かけていたあるとき、ドリュ社の圃場で、深い灰青色の葉を持つ試作品を見つけました。
日本で好まれそうなのでその旨を‘アンナ プルナ’など銘花の作出で知られる故フランソワ・ドリュさんに話をすると、
「こういう葉のバラはフランスでは売れないんだよ…」との答え。
フランスでとくに好まれるのは浅緑色の照り葉の品種とか。
バラ育種は花の美しさと樹の性質のバランスで選ばれ発表されますので、必ずしもみな葉が浅緑色の照り葉ではありませんが。
日本に帰ってそういう目でドリュ・デルバールのバラの圃場を見ると、畑全体が浅緑色に見えます。日本のバラの畑を見たら全体に深緑でした。

‘アンナプルナ’(2000年)は、フランソワ・ドリュさん作出の銘花。清楚な白花でさわやかな香り。安定して開花。各種国際コンクールで受賞、フランスでも日本でも長らく人気。

大きな花に比べて小さい浅緑色の照り葉を持つ‘ローズ シナクティフ’(デルバール1999年)。深い香りもある。樹は大きなシュラブ。

デルバール社のバラのペインターシリーズ(画家のバラ)は絞り花。小さめの浅緑色の照り葉が、黄色と濃ピンク・白色の絞りの花を引き立てる‘エドゥアール マネ’(2016年)。

デルバールのバラは必ずしも照り葉ではない。豪華な香り高い花に対し小さめの少し波打つ濃緑色の葉の‘ローズ ポンパドゥール’。
証言② 葉の色・かたちなどと耐病性は関係ない
かつて「照り葉だから耐病性が高い」と言われた時期がありました。
そこである講演会のとき殿堂入りした銘花で薄緑色の照り葉の‘アイスバーグ’について、
故・ヴィルヘルム・コルデスさんにその旨を話ししたところ
「コルデス社ではいまは‘アイスバーグ’レベルの耐病性では満足していない」とのことでした。
後で気付いたのですが、そのころは同社が耐病性を大前提として育種をすすめていたときです。


1958年作出で、いまなお全世界で愛されている‘アイスバーグ’(上)と、耐病性が大幅に高くなった‘ベビー アイスバーグ’(2020年 下)。
続いてコルデス社の育種家のトーマス・プロルさんに聞きました。
2016年に「バラの耐病性は葉色やかたちなどと関係があるのでしょうか? 照り葉が耐病性が高いと言われますが…」と。
すると「葉の大きさ、かたち、照りと耐病性に確かな関係があるとは考えていません。照り葉の品種は病気に強いと考えられがちですが、おそらく見た目に生き生きと見えるからでしょうか?
照り葉はバラをより魅力的に見せてくれるのは確かですが、耐病性は遺伝的なものです」との答えでした。
コルデス社のバラは深緑色のものが多くあり、照り葉の品種も多くさまざま。
しかし発表される品種はいずれも高い耐病性があり、これは世界的によく認められていることです。

丸い葉は深い青緑。‘クリスティアーナ’(2013年)。

細長い楕円形でツルッとした照り葉が特徴的な‘グレーテル’(2014年)。

耐病性が高い品種の代表例としてよく紹介される‘メルヘンツァウバー’(2015年)。大きめの花に対し葉は小さめ、葉脈が目立つ。
証言③ 耐病性は選抜から
オールドローズの美観を引き続ぐイングリッシュローズ。花も樹も混植ガーデンに合い、樹姿はふわっとしたシュラブ。
葉は小さめでソフトでマットな葉。そのやわらかさが日本でも人気に。
イングリッシュローズは導入当初HTに比べて「耐病性が高い」と言われました。
2016年にオースチン社のセールスマネジャーをしていたルーク・スティムソンさんに聞くと「葉の丈夫さを含む強健さは選抜の結果」とのことでした。
そして言います。「過去20年間にわたり、作出するすべてのバラの耐病性を向上させることに注力してきました。そして、この分野において納得のいく大きな進歩を遂げることができました」。
その結果例として、当時最新の下記2品種をあげています。

‘オリビア ローズ オースチン’(2014年)。樹はしっかりとし、葉はほかの品種よりやや大きめ。

清楚な白花と葉のバランス良く株のまとまりの良い‘デスデモーナ’(2015年)。
新しいスタイルのバラ
身近に花を観賞する従来のバラとは違う概念でつくられたバラも。
その一つローズペイザージュ(ランドスケープローズ、修景バラ)は、もともと公共の場でローメンテナンスで花を咲かせ続けるために開発されたバラのジャンル。
開花連続性に優れ、耐病性が高く手間がかかりません。香りはなく、花そのものというより株全体にいつも咲く花を遠くから眺めて楽しむものです。
ローズペイザージュの先駆的存在のメイアン社。このタイプでも耐病性と葉の色やかたちの関係はあまりありません。
株姿ではかつては枝が横に張るシュラブが多かったのですが、近年は木立性またはコンパクトな品種が登場。
香りはありませんが、いつも花を咲かせます。

木立性・直立性のローズペイザージュ‘レヨン ドゥ ソレイユ’(2015年)。花保ちが良くとても開花連続性に優れ、春から冬まで花を咲かせ続ける。葉は小さめ。混植ガーデンで。
メイアン社では最近都市生活者のための「アーバン・ローズ」というコンセプトの中で、ごく小型で開花連続性に優れ、耐病性が高い品種を発表しています。葉は照り葉です。

ごくコンパクトな株に小さな花を咲かせ続ける‘ゼプティ’(2019年)は新しいスタイルのバラ。葉は濃緑の照り葉。室内栽培にも耐える。

「世界バラ会議福山大会2025記念ばら」に選ばれた‘シュガー キャンディー ローズ’(2022年)。オレンジとピンクの小中輪花が、照り葉の上に輝き、咲き続ける。株はコンパクト。
特徴的な葉のバラ
バラの葉はさまざま。最近のバラの中には、銅葉に近い品種や、外側に折れ曲がるような葉の品種があり、またそれが品種の個性となっています。

ツヤのある赤黒い色で出芽。次第に黒っぽい照り葉に展開し、ニュアンスある赤紫色の大きな花を咲かせる‘ヴィウー ローズ’(デルバール2019年)。株全体でシックな雰囲気

ゲーテ ローズ’(タンタウ2011年)は大きく華麗なローズレッドの花。ダマスク・フルーツの強い香りは蓬田バラの香り研究所の科学分析結果においても揮発量が多く、バラの中でもっとも強い香りの品種の一つ。葉は濃緑で葉脈が目立ち、縁が外に折れ曲がる。
葉にもっと注目
花色・花形・香り…バラをみるとき、つい花だけに目が行きがちですが、葉はそのバラの印象を決めるのにとても大切。
病気に強いかどうかという樹能面もありますが、好印象には花だけでなく葉も大きな役割を果たしているハズ。
素直な目でよく見てみましょう。(続く。次回は日本のバラの葉について)。
著者紹介
関連記事

玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。