バラをもっと深く知る㊹近くで見る・離れて見る
小輪のシュラブは、近くで花を見てもかわいいが、通常は離れて花が咲く株姿全体を見る。
建物脇に植えられた一株のローズペイザージュが景観をつくる光景は、フランスの定番(フランス・ブブロンで)
花で見るバラ・株で見るバラ
バラの専門家たちの間では、「この品種は“花を見るバラ”」「“株姿で見るバラ”」と区別することがあります。
花を見るバラは、花そのものに魅力があって、近くで見て、香りも嗅ぎたくなるような品種。
花が大きめな品種を典型とし、主に大輪~中大輪品種。中輪~小中輪でも、その花が咲いたときにとても魅力あふれるようなバラです。
株が小型。花のつくりがとても繊細な中輪の‘ウンディーネ’(ロサ オリエンティス ノヴァ)は、“花を見るバラ”
一方“株で見るバラ”は、花そのもの、一輪でも房でももちろんカワイイのですが、少し離れて見て、まとまった株の上に咲き揃ったときの姿を見るようなバラ。
小輪~小中輪品種の木立性またはシュラブがこれにあてはまるでしょう。できれば自然樹形で、仕立ててあっても株がきれいと思えるような品種です。
花一輪というより、少し離れて見て、株がコンパクトでいつも咲く藤色の花が頼もしい‘マチネ’(独コルデス2019年)。ミューレンベルギアと。花菜ガーデンで
典型的なのが、グラウンドカバーやローズペイザージュ(修景バラ、ランドスケープローズ)タイプのバラ。
春は株を覆うように咲く“色の面”を離れて見ます。耐病性高く薬剤散布の手間がかからない上に、咲き続けるようなバラです。
最近はあえて修景用と言わないまでもコンパクトな木立性で、短い枝先に繰り返し花をつけ、飛び出る枝がでない品種が増えてきました。
少なめの舟弁が重なる小中輪‘シュガー キャンディー ローズ’(仏メイア2022年)。短枝にたくさん花を咲かせ、春は株を覆うように咲く姿がパッと目を引く。アーバンローズと位置付けられ、鉢植えでも、ローズペイザージュとしても
日本と海外 花を見る距離感の違い
かつてから「日本人は近くで花を見る。海外は離れて見る」と言われてきました。背景には庭の広さもあります。
海外は小さい庭といっても広く、日本では鉢植えも含め小スペースで花を観賞せざるを得ず、至近距離で花を見ます。
日本のコンクールでは多少の配点の差こそあれ「花」の評価が第一。しかし海外では、樹の丈夫さに加え咲いたときの株姿が評価されています。
例えば歴史ある仏バガテルのコンクールでは最近、一輪一輪花を見ず、離れて見たときの姿と樹の強さを評価する、と言います。離れて株を見て、きれいと思える品種が評価されるわけです。
自然に一重咲きや半八重咲きなど花弁数が少ない品種が入賞することが多くなっています。
国際コンクールが行われるパリ・バガテル公園
2020年にバガテルのコンクールで日本人育種の作品として初入賞(グラウンドカバー部門賞)受賞の小輪多花性の‘ニューサ’(ロサ オリエンティス オリジン2014年)
耐病性だけでなく枝が飛び出ない
一般にバラが“育てやすい”ことは、栽培に“手間がかからない”こと。
栽培作業には①病害虫防除のための殺虫剤や殺菌葉の散布②摘蕾・花がら摘み・切り戻し・剪定など③株を生長させるための施肥④水やりがあげられるでしょう。
このうち③は適宜、④は必ず必要として、とくに手間と関係し気になるのは①と②。
病気にかかりづらいことは、①の薬剤(とくに殺菌剤)散布を「頻繁に行う必要がない」ということを意味します。
薬剤散布と同等以上に気になり、手間がかかるのが②摘蕾・花がら摘み・切り戻し・剪定です。
短枝に花を咲かせ株が小型~中方の品種の栽培で気をつけるのは、苗のうちの初期成育期間です。
株が小さいうちは樹勢がないので、薬剤散布をていねいに行い、若いうちからたくさんつける蕾を摘んで、株の生長を促します。
そして成木になって(一般に新苗から当年含み3年、大苗から2年)からは、必要最低限の薬剤散布で葉を保ちます。
剪定も手間いらず。強く飛び出る枝は出ずに、自然に株姿がまとまります。
花は自然に散るので、花がら摘みは行う必要なく、夏・冬の剪定で大きくなり過ぎた枝を房の下などで切り戻すだけでOK。シーズン中はほとんど必要ありません。
花と株姿両方で見られるバラ
「花」と「株姿」を見る日本生まれの一重~半八重の丈夫なバラをあげてみましょう。
ローズ ドゥ メルスリー2024年発表の‘カネット’(ローズ ドゥ メルスリー)は一重咲き中輪。いつも花が咲いていて枝が伸び過ぎず、葉は小さく整っていて丈夫。紅葉もきれい
半八重のロサオリエンティス プログレッシオ‘風姿花伝 紅(ふうしかでん・くれない)と同‘山吹(やまぶき)’(いずれも2024年)。‘紅’(写真上)は半八重咲きの中輪。咲き始めの赤色が初々しく可憐で、次第に紅色になって咲き混じる。‘山吹’(写真下)は一重の小中輪。株は細立ちでたおやか
気が付いたら咲いている
きれい! カワイイ…私たちは、バラ園に行ったり開花した苗を選ぶときに、まず「花」を見ます。
花の色や大きさはさまざまあって、何がきれいと思うのかは、人によって違うでしょう。
しかしいまは、花の好みだけで品種を選ぶのではなく、栽培手間や、「どんな風に楽しみたいか」も考えて選ぶ時代に。
これら手間をかけず、気が付いたら咲いているようなバラ。
景観や庭の広さも違うので欧米並みとまではいきませんが、少し離れて見た株姿もきれいです。
これらが家に一株でもあると、四季を通じて楽しめ、ほかを引き立て、庭に一層の華やぎをもたらします。
著者紹介
#バラ #バラの育て方 #特集
玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。