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東京花散歩 建物と一緒に楽しむアジサイ 府中郷土の森へ行ってきた

東京花散歩 建物と一緒に楽しむアジサイ 府中郷土の森へ行ってきた

アジサイが美しい季節、自粛解除後、いろいろな名所が多くの方でにぎわっていると思います。今回、私の楽しみ方の一つ、建物と一緒にアジサイを楽しむ、という視点で、知る人ぞ知る東京の名所、府中郷土の森をご紹介したいと思います。

東京都府中市にある「府中郷土の森」には、府中市内にあった江戸時代から昭和初期の建物が、複数移築・復元されています。そして、それらの建物の周囲にアジサイが植栽され、6月の景色をつくっています。鎌倉の明月院など、アジサイ寺と言われる寺社が各地にあるように、寺社仏閣と相性のよいアジサイですが、一般の建物との相性もよいものです。

建物を背景に咲くアジサイ

建物を背景に咲くアジサイ

郷土の森に移築・復元された建物は、実際の生活に利用された建物ですので、寺社の中のアジサイや山の斜面のアジサイとは違った、趣のあるくらしの中の花景色となっています。

ハギトンネルに続く階段脇に咲くアジサイ

建物以外でもステキな景色のある郷土の森、ハギトンネルに続く階段脇に咲くアジサイ

最初は、大正10年に竣工された旧府中町役場庁舎とアジサイです。クリーム色の壁とブルーの窓枠が当時としてはモダンな洋風建築で、東京都指定の有形文化財になっています。役場の裏には、当直室などに使われた和風の建物が付属していて、その窓から見えるアジサイの景色が素敵でした。

旧府中町役場庁舎とアジサイ
旧府中町役場庁舎とアジサイ
旧府中町役場庁舎とアジサイ

二つ目は、1888(明治21)年創建の建物で、「島田薬舗」と書かれた店の看板は、明治の有名な書家のものだそうです。明治時代にはこんな感じの店舗が一般的だったのでしょう。そんな建物とアジサイが咲く風景は、建物の色合いと華やかなアジサイの花色が何とも言えずにマッチングしています。

建物とアジサイが咲く風景
建物とアジサイが咲く風景

三つ目は、旧河内家住宅です。ムサシノキスゲの自生で知られる浅間山近くにあった茅葺き屋根の農家の移築・復元です。江戸時代の創建ですが、養蚕が盛んだった明治時代後期の姿を復元しているそうです。建物は府中市指定文化財です。こういった農家の庭には当時どんな花が咲いていたのでしょう。

旧河内家住宅
旧河内家住宅

四つ目は、かつて武蔵野でよく見られた水車小屋で、「胸掛け式」と呼ばれる形の水車が回ります。建物自体は平成3年に建築されたもののようですが、アジサイと竹林に囲まれた風景は、かつての武蔵野のイメージを表しているのでしょうか。水車とアジサイは水を介してよく似合います。

水車小屋
水車小屋
アジサイと竹林に囲まれた風景

その他に、旧田中家住宅(府中宿の大店)の裏の木の塀沿いに咲くアジサイや建物ではありませんが、水田などのある畦沿いに咲くアジサイ、格子戸を背景に咲くアジサイなど、単に花を眺めるのではなく、建築物とのコラボをアジサイとともに楽しませてくれる演出がとても素敵です。

裏の木の塀沿いに咲くアジサイ
水田などのある畦沿いに咲くアジサイ
格子戸を背景に咲くアジサイ

今年、私が訪れたのが6月下旬、地植えでは開花が遅い、ハイドランジアと言われる西洋アジサイ系の花がピークを過ぎたころでしたが、全体的には華やかでアジサイがいっぱいの景色でした。もちろん、アジサイ以外の季節の花も見られました。

ナツツバキの花

ナツツバキの花

しかし、みなさんちょっと疑問がありませんか。景色としては素晴らしいのですが、果たして明治時代や昭和初期といった時代に、実際にこういった景色があったのか。実は、アジサイの歴史をたどれば、現代だからこその景色で、当時、同じ景色を楽しむことはなかったと思われます。

 

今でこそ、アジサイ人気は高く、各地の名所に人が集まりますが、観賞用のアジサイとして人気を博したのは戦後になってからのことです。元々アジサイは日本原産ですし、『万葉集』にも詠まれています。そのうちの一首をご紹介します。

 

紫陽花の 八重咲くごとく 弥つ代にを いませわが背子 見つつ偲はむ

ガクアジサイ

元々の日本のアジサイはガクアジサイと言われている

しかし、当時のアジサイは、決して今のような華やかなものではありませんでした。てまり咲きのアジサイの記録が出てくるのは安土桃山時代ですし、庶民の間でも園芸が盛んになった江戸時代、日本初の園芸書『花壇網目』(1664)や『花壇地錦抄』(1696)にも記録はありますが、アジサイに今のような人気があったかというとそれはどうでしょう。

ヤマアジサイ系の‘紅’

真っ赤な花が目を引くヤマアジサイ系の‘紅’

そして江戸末期、長崎出島にいた医師で博物学者シーボルトが祖国オランダへ日本のアジサイを持ち帰り、それが人気となって品種改良が行われました。その後、ヨーロッパへ渡った日本のアジサイがフランスなどで改良され、西洋アジサイとなって大正時代に日本へ逆輸入されました。戦後、観光資源として注目され、各地で植栽されて名所が生まれていきます。

西洋アジサイ系の華やかな系統

西洋アジサイ系の華やかな系統。日本での改良も数多く行われ、魅力的な品種がたくさん登場している

歴史を見ると、郷土の森にある建物が現役の時代には、その周りにここで咲いているような華やかなアジサイの花があったとは到底思えません。つまり、こういった建物と華やかで美しいアジサイとの景色は、実は今の時代だからこそ見られる景色なのです。そう思うと、私たちは花を愛でる機会にとても恵まれているなと思います。

美しいアジサイとの景色

アジサイの名所へ花を見に行くだけではなく、もっとそれぞれの庭へアジサイを入れて、美しい景色をたくさんつくって欲しいと思うのは私だけでしょうか。今年はアジサイも終盤になってしまいましたが、来年こそ、美しい景色を見に行ってみてはいかがでしょう。

投句箱

だ俳句を投稿する「投句箱」も設置されている

府中郷土の森ホームページ

参考資料および利用、アクセス等

府中郷土の森ホームページ

https://www.fuchu-cpf.or.jp/museum/

 

取材・構成・文・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。

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