北鎌倉は禅宗の寺院が多く、「鎌倉五山」のうちでは第一位建長寺、第二位円覚寺、第四位浄智寺があります。それぞれの寺で鎌倉時代からの歴史、建築、仏像を訪ねて学ぶ楽しみがありますが、花好きにとっては、谷戸の自然を生かした境内や庭園の景観、そして境内に咲く花たちを味わえる散策が一番の楽しみです。案外、これが観光の一番人気かもしれません。
秋のピークは何といっても紅葉狩りのころですが、その賑わいの前に花盛りの庭を巡るのも好きです。お寺によってはお茶とお菓子をいただけるお休み処や期間限定の茶寮があって、庭を眺めながら静かなひとときを過ごすこともできます。そんな北鎌倉を散策してきました。
さて秋の庭を華やかに彩ってくれる育てやすい多年草の代表といえば、シュウメイギク(秋明菊)。古い時代に渡来して定着したのは濃いピンクで八重咲きのキブネギク(貴船菊)ですが、近年よく見かけるのは淡いピンクや白の一重、八重の花。鎌倉の気候や谷戸の環境にあっていて、和風にも洋風にも合わせやすいため、寺社、公園、民家の庭や外構と各所で見られ、毎年楽しみな定番スポットがあるくらいです。
ちなみに花びらのようにみえるのはがく片。開花が終わってがく片が散った後、そのままにしておくと綿毛に包まれたタネが実ります。木枯らしに綿毛が飛ぶのを眺めるのも晩秋の庭の楽しみです。
東慶寺を訪ねて
北鎌倉駅から近い臨済宗円覚寺派の東慶寺は、明治時代までは「縁切り」の寺法がある尼寺でしたが、現在は「東国花の寺百ヶ寺」のひとつとして参拝客の人気を集めています。
境内はいつも手入れよく美しく保たれていて、梅、桜、紫陽花、岩たばこが咲く頃に訪れたり、写真を見たりした方が多いかもしれません。
そんなよく知られた花の季節が過ぎて、秋になるとまず目をひくのは群植されたシュウメイギク、コスモスなど。それだけではなく控えめな山野草の花の移り変わりや実のあれこれを見つけることで、秋ならではの風情を感じることができます。
つい先日、東慶寺のブログの「自然な庭とは?!東慶寺の庭のゆくえ」と題した記事で、長期的な草木管理計画を考えて「十勝千年の森」ヘッドガーデナーの新谷みどりさんに植生調査をお願いしておられるとの発表がありました。今後は「できれば日本や神奈川県の固有植物、中でも鎌倉特有の風景でもある、「谷戸(やと)」を有する境内に合うような、茶花や野の花をふやしてゆき、(中略)小さな発見がたくさんあるような庭にしたい」とのことで、ますます定期的に訪れる楽しみが深まりそうです。
今、秋の盛りに毎年欠かさず見るのは、リンドウの青い花、ノブドウの青い実。楚々と咲くジュウガツザクラ(十月桜)や白花サクラタデ、ミカエリソウなどの野草たちです。フジバカマの仲間によく訪れる渡りの蝶アサギマダラは、チャノキの花も好きなようでした。
東慶寺では茶道、香道、挿し花の体験教室が開催されているので、花散歩と合わせて参加しても楽しい時間を過ごせるのではないでしょうか。詳しくはHPから。
体験教室の様子や境内の花については、ブログでも確認できます。
円覚寺 松嶺院と如意庵・茶寮 安寧
臨済宗円覚寺派の大本山円覚寺は広い谷戸の境内に数多い塔頭が建ち、公開されているところだけ巡っても、半日くらいはすぐに過ぎてしまいます。秋の花散歩、まずは総門から三門(山門)まで進んだすぐ左手に見える松嶺院の「山野草と茶花」を目指しました。
本堂の周りの花壇や鉢にハギの花のいろいろ、背の高いシオンやカリガネソウの花、ウメモドキやロウヤガキの実が見られます。巡回路は小高い墓地を通って戻って来るので、円覚寺の三門、法堂を見晴らすことができます。カリンの実が色づき、ジュウガツザクラも咲いていました。
境内には何ヶ所かお茶処がありますが、水木金曜日(11月は土曜日も営業。また不定期にお休みや営業時間変更があることも)は塔頭・如意庵の茶寮「安寧(あんねい)」へ寄りたいもの。花の飾られた玄関、廊下を通り、庭を眺める居心地のよいお席でゆったりと過ごせます。美しく盆にのせられた甘味には境内に咲いている花の一枝が添えられて。ほうじ茶はポットでおかわりも勧めていただけます。
この知る人ぞ知るお寺カフェでは月に一度だけランチ「花むすび膳」を出しているのですが、予約は受付開始日にすぐ満席になってしまうのでなかなか味わう機会がありません。
如意庵 茶寮 安寧 https://nyoiannei.jp/
Tel. 080-7741-0683(開寮日時のみ対応)
浄智寺
鎌倉街道から南に入った谷戸にある静かなお寺で、鎌倉石の参道を上がった先に見える鐘楼門が印象的です。門をくぐった右手の本堂・曇華殿でお参りして裏手へまわると、茅葺の書院の庭いっぱいにシュウメイギク(キブネギク・貴船菊)が満開でした。谷戸の斜面にはイヌショウマやヤマトリカブトなどの野草も自生していて、野趣を楽しめます。
春にはカタクリやスミレなどの山野草が咲く庭を眺めて、竹林の小道、切り岸ややぐらなどを一周すると鎌倉らしさを味わうことができるでしょう。マンリョウの実がそろそろ赤くなり始め、ロウバイなど冬の花の蕾も少しずつ膨らみをましていました。次の季節への期待も高まります。
KEIKOさん
北鎌倉に越す以前、東京時代の仕事は雑誌編集者。マンションのベランダと戸建ての庭でのガーデニング経験あり。昔はタネから育てたり、品種コレクションを頑張ったこともあるけれど、いまは気楽に自然体の庭づくりを楽しんでいる。鎌倉や旅先では寺社の庭や公園・緑地の季節の花を見たり撮影したりする散歩好き。
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