バラをもっと深く知る㉓ 花保ち vs 離弁性
バラの花はぱっと散った方が良いのか、散らずにずっと咲いていた方が良いのか-。
人により考え方が違います。
国による違いや、タイプによる観賞の仕方、そして栽培管理の手間によってもその評価は違ってきています。
蕾から開くときワクワク。花が開く。
花びらがこぼれる散り際の風情。地に落ちた花びらの風情もよいもの。
そして散った花びらを水に浮かべて。乾燥させてポプリに。ローズバスにする方もいるでしょう。
バラは、咲く前から散った後まで楽しめます。
しかし人は勝手なもので、そんな花びらも褐色に変わると何かきたなく感じ、片付けたくなります。
バラは潔く散るからイイのか、散らずにきれいな色とかたちを保ってずっと咲いていた方がイイのか――これは、人によって考え方が違います。
育種・栽培管理などさまざまな方面からみてみましょう。
育種~バラの性質面から
バラは育種上、花保ちと香りが反比例します。
一般に花に香りが高いと散りやすくなり、香りが無いと花は長く保ちます。
花びらが薄いとやわらかさがある反面、散りやすくなります。
弁質が良いと散りにくくはなりますが、香りがあると花びらの周囲が焦げたり、シミが入りやすくなります。
育種家はそのバランスで選抜していくわけです。
これらガーデンローズと違い、切花品種は花が長く保つことが商品価値になりますので、花保ちを重視します。
香りが無いバラが多いのはそのためです。ちなみにガーデンローズで「切り花にも向く」と表記されるのは花枝が長いか、花保ちが良いことを示します。
コンクールでの評価面から
花が散って枝先に残らないような性質を「セルフクリーニング性」と言い、日本では「離弁性」と呼ばれています。
国際コンクールではバラの美しさとともに香り、開花の性質や樹の性質など、バラそのものを総合的に評価します。
セルフクリーニング性は全部のコンクールではありませんが評価点の一つになっていて、咲きがらがそのまま枝先に残って褐変せず散る性質を重視します。
これは海外でも同様ですが、管理面の別の事情があるようです。
どこかで掃除はするのでしょうが、庭が広いせいか、散った花びらはそのまま地面に散らしておいてあるような光景も時折見かけます。
管理作業面から
日本でのバラ栽培では「咲きがらは摘む」という作業は当たり前。
確かに咲いた房の花の中で終わった花を切るとすっきりし、残った花がきれいに見えます。
庭の地面も常にきれいにしておきたいところ。そこで最近は花が長保ちする方が良いと考える方も増えています。
その理由は、散った花の後片付けの手間にあります。
たくさんの花びらがバサッと散ると、地植えなら下に植わっている草花等の上に散らばって、取り除くのがたいへんです。
ベランダなどで鉢栽培していても、散った花びらが下に敷いてあるスノコなどの下に落ちたり、それらが排水口にたまったら掃除がたいへんになります。
お隣への配慮も。散った花びらが風に吹かれてお隣に飛んでいくのは、何か気になります。
後片付けの手間を考えて、花びらが散らず、きれいなままずっと咲いていてほしいと思うのは、当然の心情です。
具体的なバラのタイプと観賞のしかたから
この散った方が良い・散らない方が良いという考え方、バラのタイプによっても違い、観賞の仕方や管理に対する考え方でも違います。
咲きながら散る姿がきれいなオールドローズ
多くは一季咲き。だんだん明るくなる日差しを受けて蕾が膨らんでくると開花が待ち遠しくなります。
香りのある種が多く、開花してからは“瞬間芸”とまで言われるほどスグ散りますが、次の花も続いて咲きます。
この咲きながら、かつ散る姿がたまりません。
株も大きめに広がる品種が多いので、花びらを地に落として褐変しても気にならないような、ある程度スペースがある庭や、ナチュラルな植栽に向いているともいえるでしょう。
四季咲きでも一重のバラは咲きがらを切らなくても散る品種も多くありますが、これら品種の中にはそのままにしておくと実をつける品種も多くあります。
花がらを摘む必要がない、連続開花性に優れたローズペイザージュ
多くは公共の場で利用されるローズペイザージュ。公共の場では管理がそれほど行き届きません。
そこでこれらは薬剤散布の回数が少なくて済むいわゆる耐病性の高さに加え、とくにセルフクリーニング性が求められます。
例えばチェリーピンクの小中輪‘チェリー ボニカ’(メイアン)は、終わった花のスグ下から花芽が上がり、一つの花が終わるころ、その上を新しい葉と咲く花が覆います。
だから花がらを摘む必要がないわけです。管理上とてもラクです。
花保ちが良く「いつも咲いている」最近の品種
いまの愛好者のニーズには、丈夫で葉を落としづらいことに加え、「いつも花が咲いている」ことがあります。
「いつも花が咲いていること」は、開花間隔が短く、次々に連続して開花することもありますが、それにもある程度の間隔があります。
咲いた花が花弁が褐変することなくきれいな姿と花色をずっと保っていれば、「いつも花が咲いている」状態になります。
その一つが‘マイローズ’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)。
冴えた赤色の中輪花は、一つの花の花弁が傷むことなく、ずっときれいに咲いています。
耐病性の高い葉、コンパクトな株であることもあって、ロサオリ中トップ人気です。
しかしその花も次第に色褪せます。終わった花の花がらは摘む必要があります。
‘フランシス バーネット’も花保ちが良い品種です。ティーにグリーンの中香も。
つるバラ仕立てもできる大きめのシュラブです。
ロサ オリエンティス プログレッシオ2022年秋発表の最新作に、‘楼蘭(ろうらん)’があります。
ピンクの小中輪の一つの花が、横張りの木立性株の上に‘マイローズ’と同じくらい長くきれいに花を保ちます。
まさしく「花保ち」をテーマに選抜・発表された品種です。
花を長く保っていつも咲いていて掃除の手間が少ない方が良いのか、自ら散って花がら切りの手間がかからない方が良いのか――その手間に加え、バラをどう捉えどんな場所でどう楽しみたいかによっても、品種選びは変わってくると言えるでしょう。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。