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伝統のHT・FLに「香り」

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~2018年は日本のバラのエポックメイキングな年③ ~武内俊介さん(京成バラ園芸)

 「バラらしいバラ」が何かは、人によって大きく違います。「どんなものがバラ?」とバラのイメージを聞くとき、ある人は「赤く大きな剣弁高芯咲き」といい、ある人は「ロゼット咲きの淡い色の中輪」と言うでしょう。まず性別による違い。とくに赤色の大きな花、立派な花。HTに代表されるこれら品種を好むのは、全世界的的に男性愛好者層。これに対し女性愛好者はやわらかな花色のやさしい花を好みます。バラ園には行くけれどバラをあまり育てたことの無いほとんどの方にとって「バラ」といったら、やはり「赤色の大輪」です。

 

 HTは20世紀に全世界的に主流となりましたが、20世紀末のガーデニングブーム以来、シュラブローズ(S)が増えてきました。HTは育種上●花の大きさ●花色の発色を追求されてきたために、どうしても●香りが少ない●葉の耐病性に劣る(樹勢はある)・・・といった性質に。中には特に耐病性に優れるHT‘ウェディング ベルズ’(独コルデス)や‘マイガーデン’(仏メイアン)なども生まれてきていますが、近年ヨーロッパでは耐病性に劣るHTを育種する人・栽培する人は少なくなってきています。FLも同じ用途(花壇で色彩の面をつくる)のローズペーザージュの増加と比例するように、減少傾向と言われています。栽培の手間を省く方向にあるわけです。

 

 しかし日本ではHTやFLを愛好する人はいまも多くいます。一般家庭園芸ベースでは全国で栽培されているバラの約50%はHTとFLとみられます。日本は、自国生まれの品種中心に育てられる海外と違い、生育の環境に合っていれば毎年海外の新しい品種が次々と導入されるのが大きな特徴ですが、同時に古くから親しまれているHT・FLもずっと並存して育てられているわけです。

 HT・FLは葉がほか系統に比べて葉の耐病性に劣るため、また日本はヨーロッパと比べて高温多湿なので、同じ品種でも病気や害虫の発生も多いので薬剤散布を行い、大きな花や大きな房に咲かせるための切り戻しを行い、肥料を与えて栽培されます。バラ栽培経験者にとっては、長年培われ手馴れたこの栽培法には親しみがあります。園芸的に栽培し身近に花を楽しむ花木としては、逆に「育てやすい」とも言えるでしょう。楽しみ方も、庭の中でほかの植物と組み合わせるというより、単独で花一輪や株全体に咲く姿そのものを観賞するものです。

 バラは花を観賞するものなので、「花の良さ」が第一で、これは誰も異論の無いところ。西洋でのシュラブローズの増加と、耐病性等樹の性質の向上など近年の流れと相反するものとされてきたHT・FLですが、バラは多様性があってこそさまざまな嗜好に対応できます。そういったバラの系統や性別や年代、愛好者や育種家といった隔てなく、国を超えて、共通する願いがあります。「バラには良い香りがあってほしい」ということです。

 育種の技術上、一般に剣弁高芯咲き品種はロゼット咲き品種に比べて育種しにくく、香りあるバラも同様です。香りのあるバラどうしの交配でも出現しにくく、香り、特に強い香りがあるとどうしても性質が弱くなりがちになるなど、樹の生育性とのバランスがとりにくいと言われます。

 

 その難しさを、伝統のワクの中で工夫して実際のバラに実現しているのが武内俊介さん。香りのHTやFLを多く育種しています。武内さんはわが国最大のバラ企業・京成バラ園芸の三代目育種家。海外にも通用するバラ育種を目指した鈴木省三氏や、平林浩氏の育種を受け継ぎ、伝統的なHTやFLを中心に、独自の作品を生み出してきました。

 育種のテーマの一つが「香り」で、香りのバラも多くあり、国内外のバラの国際コンクールで認められてきました。その一つが‘快挙(かいきょ)’。2010年のローマ国際コンクールでは日本のバラとしては28年ぶりにHT金賞を受賞しました。同年JRC金賞も受賞。バラが香りにくい夏でもよく香ります。2011年に発表されました。もう一つには花・開花・香り・樹の性質に優れ、日本の3つの国際コンクールで受賞・世界バラ会義で京成バラ園が「優秀庭園賞」した記念花にもなった‘春乃(はるの)’(2015年)があります。

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褪めない黄色、夏でもさわやかな柑橘系の香りが香る‘快挙(かいきょ)’

 

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安定した開花と樹の性質、強くは無いがバランスのとれた香りの‘春乃(はるの)’

 

 また香りは現在一般に西洋のバラは「ダマスク+フルーティの強い香り」、日本のバラは「ティーローズ香が入った強くはないけれどバランスのとれた芳香」と言われます。武内さん作出の作品には西洋のバラのような「強い香りのバラ」も多くあります。2003年発表の‘桃香(ももか)’です。整った半剣弁高芯咲きの典型的なHTで、とても強い香り。数歩離れたところからも香ります。2009年第三回国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」で香りの強さ・質の2項目の合計で最高点を取得しHT金賞受賞。最も香りが強いバラに送られる新潟県知事賞も受賞しています。2013年には同園10周年の来園者の人気投票でアニバーサリーローズにも選ばれました。

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‘桃香(ももか)’。

2003年発表、2018年で15周年。香りは「香調:ティー、フルーティの香りに香料ゼラニウムようの甘さがある。柑橘のフレッシュな酸味をともなった上品で調和のよい優れた香り(越後コンクールの評)」/「ダマスク・モダン+フルーティ+ティー」(蓬田バラの香り研究所の科学分析結果)。

 早くから香りを意識されたHTとは違い、色彩感覚を楽しむのであまり香りが考慮されなかったFL。このFLでも強い香りの品種がその後次々と発表されています。‘夢香’(ゆめか、2007年)、‘薫乃’(かおるの、2008年)、‘結愛’(ゆあ、2011年)です。‘

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‘夢香(ゆめか)’。

2004年JRC金賞・芳香部門金賞。第一回国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」で最も強い香りで新潟県知事賞・FL銅賞を受賞。香りは「フルーティ:フルーティな甘さにレモンのさわやかさのある華やかで調和の良い香り」(越後コンクールの評)/フルーティ+ダマスク・モダン+ティー(蓬田バラの香り研究所の科学分析結果)

 

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‘薫乃’(かおるの)は2008年発表、2018年で10周年。海外のバラにも少ない、さまざまな香りがミックスされた香水のような香りのバラ。武内さんは「幸せの香り」と言います。2005年JRCで香り部門金賞・第二回国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」ではFL銅賞を受賞。科学分析結果では「ダマスク・モダン+フルーティ+ティー+ミルラ」で「現代バラの香気成分を広く含有している」(蓬田勝之氏)と評されています。

 ‘夢香(ゆめか)’‘薫乃(かおるの)’いずれも育種上「香り」に注力したため性質はやや大人しめですが、よく繰り返して花を咲かせ、いつも芳香を身近に味わうことができます。

 

 

 香りと同時に花の変化が楽しめる品種も。その一つ‘結愛(ゆあ)’は2011年発表。裏弁が少し濃いグレー味のあるピンク花が赤い茎・赤めの葉に映えます。武内さんは「ラズベリーとストロベリー、ダブルベリーのシュークリームのよう。香りは花の中にジャムやクリームが隠れているのではないかと思える濃密な甘さの、甘酸っぱい香り」と言います。香りのバラの割に花もちが良く、整った中央部がふくらんだ剣弁高芯咲きから咲き進んで横に丸く広がり、言葉通りシュークリームのような咲き型になっていきます。直立性・コンパクトで育てやすい品種です。

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甘く濃厚な香りで花型も変化する‘結愛(ゆあ)’

 

 そして2017年春発表、秋から本格発売されたのが‘恋結び(こいむすび)’です。丸弁で花の中央が膨らむHTらしい高芯咲き。花の中心部が薄く、次第にピンク色を深めます。この品種、香りにとても特徴があります。「スパイシー」な香りがフルーティな香りに混じり、強く香ります。日本で特に愛される高芯咲きHTに、日本原産のバラ(ノイバラ)の香りをのせた、日本ならではの「香りのバラ」と言えるでしょう。実際に毎年数多く発表される京成のバラの中でも「人気を集めている」といいます。

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日本のノイバラの香りのHT‘恋結び(こいむすび)’は人気品種

(次回の育種家へ続く)

玉置さん

 玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

この記事で紹介された植物について

バラ

学名:Rosa /科名:バラ科 /別名: /原産地:アジア、ヨーロッパ、中近東、北アメリカ、アフリカの一部 /分類:落葉(ツル性)低木 /耐寒性:中~強/耐暑性:中~強

気品あふれるその華やかな姿から、花の女王とも呼ばれるバラ。

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