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杏美のキノコ旅日誌2
京都での新たな出会い〜隠れた冬虫夏草〜

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2018年8月下旬、京都府に入って3日がたちました。今日は、冬虫夏草の専門家と一緒にフィールドワークをする日です。〝冬虫夏草〟というと、漢方薬なイメージがつきものですが、必ずしもそのすべてが漢方薬ではなく、種類もさまざま。今回探す冬虫夏草は知っている人でなければ決して見つけることのできない、隠れた冬虫夏草なのです。

 

バス停から30分ほど歩き、目的地に到着しました。周りは、常緑照葉樹林が押し迫るように生えた急斜面の壁で、それに沿うように小さな歩道が通っていました。その下には透明な水が下流の大川を目指して流れていて、周りの土葉からは少し水がにじみ出ているようでした。岩場の影では微かに冷気が吹いていて、ほてった体に当たってきているのを感じました。近くではマムシが尾を使い落ち葉を叩きながらこちらを警戒していました。一歩間違えば、ヘビの射程範囲内。あぶない。あぶない。

「おーい、ちょっとこっちへ来てください。」

専門家の声が、一つ向こうのカーブから聞こえて来ました。小走りで向かうと、専門家は葉っぱを一枚持っていました。

「これが、ハガクレシロツブタケね」

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一見、普通のアオキの葉です。アオキの葉を裏側にしています(上写真)。しかし、どこのことを言っているのかまったくわかりませんでした。

「えっと…あの…、どれなんでしょうか?」

「これですよ。」

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指の先を見てみると、確かに茶色い何かがいます。そして、その茶色の縁に白い塊があることがわかりました(上絵 ハエ目の蛹を宿主とするキノコ)。

「えっ…こ、これですか?」

「そう、それです。」

これが菌類であることの驚きが自分の脳に衝撃を与えている時、専門家はどんどん奥の方に行ってしまいます。頑張って追いつこうとしますがなかなか追いつけません。

 

ひと休憩。と、岩場に手をついた時テイカカズラの葉上にはカビゴケの仲間がはびこっていました。同じ緑色なのに、テイカカズラは深緑色、カビゴケの仲間は若草色をしていたからその差は歴然でした。そんな中、まるで線香花火のように一際目立つ生き物がいました。

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それは、クモ類に寄生するAkanthomyces aranearum(アカンソミケス・アラネアルム)という和名のない冬虫夏草でした(上絵 線香花火のようなキノコ)。ようやく、自力で見つけることができてとてもうれしかったです。

気がつけば、時間は午後1時を回ろうとしていました。水の流れを見ながらおにぎりを食べました。すると、しゃがんだ場所から葉の裏に何かが下がっているのが見えました。

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「これは!」

葉をめくり返してみると、まるで筆の穂先のように白く、柔らかいものがありました(上絵 筆の穂先のようなきのこ)。

「それは、Hevansia novoguineensis(ヘヴァンシア・ノヴォギネエンシス)だよ」

…私の耳は何かの呪文を聞いたのでしょうか? 何度も、聞き直しようやくわかりました。

 

 

さて、冬虫夏草探しは一旦やめて、山の尾根へと向かいました。上へと向かうにつれ、谷間の湿気は少なくなり乾いた音が響き渡りました。キノコ達も心なしか少なくなり、あるのはカワラタケやサルノコシカケの仲間など硬質菌とよばれる硬いキノコばかり……。

尾根に到着し、今度は谷側に向かい降りていきます。クモの巣を払いながら下っていくと、尾根付近では感じられなかった湿度が肌にしっとりとのってきました。周りを見渡してみると、あんなに硬いキノコばかりしかなかったのに、今度はイグチ類やキシメジ類などの軟質菌が多くなってきました。こういうところには、変わったキノコも生えやすいですのでじっくりと見ていくことにしました。

 

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一本のコナラの倒木、根元には枯れた幹が少し残っていました。倒れた木には、コケ植物が覆っていました。倒れて何年も経っているようです。そんな木の根元を見てみると、赤いキノコがポツンと、一つ生えているのがわかりました。その複雑な形と色は、まさしく「カエンタケ(幼菌)」そのものでした(上写真 カエンタケ幼菌)。一時期、世間を賑わせていたキノコが、まさかこんなところで見られるなんて……。専門家の人曰く、ここのカエンタケは4年ほど前から見られているそうです。

 

翌日は京都の公園を歩く日。もちろん、案内していただく方はキノコが大好きな人。大好きすぎて本の出版やメディア出演をされている方が今回の案内人です。この公園では、キノコの観察では最適な場所らしく事あるごとによく利用されるそうです。私自身はこの公園は初めてですが、入る前から何か不思議な、キノコがありそうな気配がしました。

何度も記しますが、ここ最近まったく雨が降らず太陽の光が毎日きれいに見える日が続いていました。道路は光を吸収し、鏡のように風景が反射していて、帽子を被らないと焦げ死にそうな暑さでした。

 

バスを降りて、少し歩いたところにその公園はありました。この場所には神社もあり、ヒノキやサクラ、シイやカシなどいろいろな樹木が生えているちょっとした小山のようでした。さっそく森の中を歩いてみると、意外ときのこ達の姿がポツポツ目に入りました。最近ニュースで取り上げられたニセクロハツ(広義)やキイロイグチ、ウスヒラタケなどが見られました。そんな中、枯葉の上に落ちていた一匹の〝アブラゼミ〟に目が止まりました。

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「これって…」

そのアブラゼミはもう動いていません。死後何日たったかもわかりません。しかし、その外観は傷一つないくらい綺麗で、不思議なことにアリの姿が見られません。そして、生臭い匂いも感じられませんでした(上絵 アブラゼミ)。

「ただ単に干からびているのか、キノコが生えるのか……、どっちだろう」

ホテルに戻り、アブラゼミを水で湿らせティッシュでくるんで様子を見てみることにしました。1週間ほどは変化がありませんでした。

 

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しかし、その後、徐々にアブラゼミに変化が見られてきました(上絵 アブラゼミの変化)。

パッと見は何も変わっていないように見えますがよく見てみると、小さな小さな綿のようなものが点々とありました(上写真 綿のようなキノコ)。これは、〝セミノハリセンボン〟というきのこの出始めであることがわかりました。

 

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〝セミノハリセンボン〟は名前の通り、セミの仲間に無数の小さな綿のようなキノコができます(上写真 セミノハリセンボン、兵庫産)。結局、観察を続けた結果無数のキノコがセミの体を覆い尽くしました。この後、セミは少しの振動で崩れていきました。

 

冬虫夏草の世界は呪文のような名前のものばかりですが、最近は雨が少ないこともあり、普段より冬虫夏草の種類数はかなり少ないそうです。しかしそんな中でも見られた、隠れた冬虫夏草を探した感動は今でも忘れられない深い思い出となりました。

kinokojosi

岩間杏美(いわま あみ) 25 歳、きのこ女子。所属:きのこびと、大分きのこ会、菌類懇話会、日本菌学会、日本冬虫夏草の会。高校生のときにキノコが好きになり、そのときからスケッチをしている。日本列島キノコ旅は、各地のキノコ関係者に会うことと、私の住む福岡県以外の各地のキノコが、どんなところで発生するのか、自分の目で見るために取り組んでいる。

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