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世界最高峰!
チェルシー・フラワー・ショーへの挑戦!
2019北海道十勝から

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イギリスへの出発直前、意気込みを見せる柏倉一統さんと佐藤未季さん
(phto by Makiko Sato)

 

チェルシー・フラワー・ショーは、毎年5月にイギリス・ロンドンにあるチェルシー王立病院の敷地で開催される、英国最古で、世界最高峰のフラワー・ショーです。正式名称は、RHS Chelsea Flower Show。RHSは、英国王立園芸協会(Royal Horticultural Society)の略です。今年は5月21~25日まで開催されます。

 

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2018年チェルシー・フラワー・ショー、ショー・ガーデン部門でベストインショーに輝いたNSPCC、ザ・モーガンスタンレー・ガーデン

 

このショーのハイライトは、著名なガーデン・デザイナーが創造する、個性的なショー・ガーデンの数々ですが、職人芸を競うアルチザン・ガーデンやニューウェーブの参加が新鮮なスペース・トゥ・グローの二つのカテゴリーの庭も見どころの一つです。

 

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2018年チェルシー・フラワー・ショー、ショーに出展された、マメ科植物だけで植栽された庭

 

これまで日本から出場したことのある個人のデザイナーは、初出場でシルバー・ギルドを獲得したケイ山田さん、2006~2008年にかけて3年連続でゴールドを獲得した石原和幸さんがいますが、日本人が出場することそのものが奇跡的といえるほど、参加に関しては大変ハードルの高いショーです。

今回、その世界最高峰の舞台に「漢方の庭」で挑戦するのが、北海道十勝在住の柏倉一統さんと佐藤未季さんです。そんな二人が4月半ば、本番に向けて東京羽田空港からロンドンに向けて旅立ちました。二人の挑戦を紹介していきたいと思います。

 

 

国バラからはじまったショー・ガーデンへの挑戦

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地元音更での柏倉さんの講習会の参加した方々と
(phto by Makiko Sato)

 

柏倉一統さんは、北海道十勝地方音更町に拠点を構え庭仕事に携わるランドスケープ・デザイナーです。金沢市に生まれ、10代の頃に福島から移り住んだ音更、お母様が小さな花屋を営んでいたので、子どもの頃から植物は身近な存在としてあったといいます。その後、大きな植物を扱って、庭づくりをしたいと思い、北海道在住の著名なガーデン・デザイナー・梅木あゆみさんに師事し、庭づくりや植物のことを学びました。

 

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国バラでの柏倉さんのガーデン「ハマナシ香る とかちポタジェ」

 

そんな柏倉さんが世界に目を向けるきっかけとなったのが、2014年国際バラとガーデニングショウ(略して国バラ)への出展です。ガーデンのコンテスト、フロントガーデン部門で「準優秀賞」を受賞、いつか日本の国バラだけではなく、世界のチェルシーに挑戦したいと思ったのだそうです。

 

法曹界への道から園芸界への転身

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イギリス留学中の佐藤さん

 

佐藤未季さんは、北海道十勝地方幕別町の出身。大学は大阪大学法学部で、卒業後も司法浪人をしながら、人を救う仕事がしたいと、弁護士を目指していました。ところが、受かる保証のない司法試験へ何度も取り組む日々の中で、心身共に疲れ切っていたところ、北大で受けた拓一試験の後、札幌芸術の森へ出かけました。そこで出会ったのが、著名なランド・スケープ・アーキテクトであるダニ・カラヴァンのランド・アートです。司法試験への取り組みで心身ともに疲れ切った佐藤さんの心に大きく響くものがありました。人を救うどころか、佐藤さん自身がそのランド・アートに救われたというのです。そして、「人の救い方にはいろいろあるんだ」と気づき、司法試験後の留学のために貯めてきたお金を、イギリスのリトルカレッジという造園園芸大学の費用に充ててしまったといいます。

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イギリスでの準備視察でのパーティーでリラックスする未季さん

 

渡英後、その大学で3年、インチボールド・スクール・オブ・デザインという学校で1年学び、在学中からガーデン・デザイナーとして、BBCなどのプレゼンターで有名なセレブリティ・ガーデン・デザイナーのアダム・フロスト氏のもとで修業を積みました。その間、チェルシー・フラワー・ショーでの庭づくりを手伝ったこともあるそうです。イギリス滞在も4年半になるころ、そのままアダムさんのところで仕事を続けようと決心したのですが、間の悪いことにその年から、ガーデン・デザイナーではワーキングビザが下りなくなり、泣きながら日本に向けてヒースロー空港を飛び立ったといいます。そして、帰国後、地元北海道でガーデン・デザイナーの仕事をはじめました。

 

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二人が出会った十勝ヒルズのガーデン

 

二人が出会ったのは、十勝ヒルズの庭園改修のときだそうです。社内デザイナーの佐藤さんと、外部設計として関わった柏倉さん、この出会いが今回の挑戦を生みました。

 

 

チェルシーでのテーマは「漢方の庭」

なぜ、今回のテーマが「漢方の庭」なのかを聞きました。柏倉さんは子どものころから体が弱く、喘息気味でもあったといいます。そんな時、お婆さんが牧野富太郎の弟子が書いた薬草カラー図鑑を駆使して、孫の一統さんの健康回復に尽力したそうです。後年、その本をみつけ、いつも開くページが咳への対応ページだったことに気付いたといいます。その本をみていくと、普段自分たちが接している植物、コブシやシャクヤクなど、多くの身近な植物が入っているのを知ったといいます。師事した梅木さんがよく言う、食べられない庭なんてありえない、という刷り込みもあったのかもしれません。

 

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柏倉さんの祖母の愛読書『薬草カラー図鑑』

 

また、国バラに出場した際、仙人のようなおじいさんが柏倉さんのショー・ガーデンを見て「君の庭って身体によさそうでいいね、中医学的にいいねえ」といい、「専門家ですか」と聞いたら「まあね」とそして[君はこれを続けていきなさい」と言われたそうです。そのことが、ずーっと心にあって、今回、大きな力になったといいます。

 

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子どものころは体が弱かった柏倉さん

 

佐藤さんも、実家が薬局だったこともあり、また、体調不良で寝ていることの多かったお母様が、漢方薬を愛用していたから元気になったことも大きいといいます。そして、「法は争いがあってから初めて人を助けられる」けど、「庭や植物は争いが起きる前に、人を癒せる、助けられる」ということに自分で気がついてから、人に大きな影響をおよぼす植物の持つ力をテーマにしたいと考えていたといいます。

 

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漢方が身近にあった佐藤さん

 

二人とも自分の中にある、確かな思いをガーデンという場で表現しようとしているのかもしれません。もちろん、日本、北海道という風土の中にいる自分たちが、初挑戦で、イギリスの真似やイギリスのデザイナーたちと同じようなことをしても、通用しないということはわかっていると言いますし、漢方は医療と無縁ではないので、資金集めにも少しは有利かな、と少し現実的な気持ちもあったといいます。ただ、こちらの方はあまり役に立っていないようですが(笑)。

 

 

チェルシー出場への高いハードル

 

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イギリスでの準備視察(1月)

 

チェルシーへの挑戦は、熱意や志だけでは実現しません。最大の難関、資金集めです。ショー・ガーデンでは億単位の資金が必要になるものもあると言いますが、二人のカテゴリーでも、1次審査を通ってから、工事に必要な(試算は自分たちで申告します)2000万円を用意できるか、といものでした。資金の目途を認めてもらわなければ、内容を評価されても参加はあきらめざるを得ません。まして準備があっての挑戦ではありませんでしたから、次のステップへ行けるとなってからがもう大変。庭のデザインのブラッシュアップを進めながら、資金集めに奔走したといいます。いや、実態は逆で、昨年の秋は資金集めがメインの仕事になっていたといいます。

 

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イギリスでの準備視察(1月)

 

急な出来事であり、いくら世界最高峰の舞台への挑戦とはいえ、遠い日本ではその評価もよく伝えられず、価値も認識してもらえず、組織的な大口の資金提供はほとんどダメだったといいます。300口以上におよぶ個人での資金援助、地元企業、そして理解あるオーナー企業等による応援など、とにかくさまざな人脈や伝手でかき集めたのが約1750万円、残りは集め続けることで、主催者側には認めてもらったそうです。主催者もさすがに大人の対応です。杓子定規な判断をせずに、よい企画には挑戦を認めてくれるのですから。

 

 

魯班尺を取り入れた設計

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「漢方の庭」の完成予想図。魯班尺を取り入れている

 

杓子定規と言えば、二人が今回の庭づくりで大切にしている要素があるといいます。それは、魯班尺(ろはんしゃく)という、風水尺とも呼ばれ、大きさや長さの吉凶を判断する物差し、寸法です。大工さんが使う差し金にも書いてあるもので、今回、漢方の庭の設計を「吉」の寸法で収めているそうです。欧米の人にそれがどう通ずるかはやってみないとわからないとは思いますが、柏倉さんの庭づくりの根幹、「人が幸せになる庭づくり」のために必須な要素として、実はテーマ決めの前から取り入れることにしていたといいます。魯班尺と漢方のコラボで表現された庭が、どう見た人に伝わるのか、私たちも楽しみです。

 

さあ本番へ向けて!

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計画等のトラブルについて佐藤麻貴子さん(右)に真剣に相談する佐藤未季さん

 

4月半ば、二人は帯広から東京へ立ち寄りロンドンへ向けて出発していきました。トランジットの間に、二人の応援団でもある、オーガニック・ガーデン・デザイナーの花房美香さん、毎年チェルシー・フラワー・ショーでさまざまな仕事をしているガーデン・デザイナーの佐藤麻貴子さん、そして私の5人で、ささやかな壮行会を開きました。しかし、そこで出た話は、それまでに手配できたと思っていた植物の入手が難しくなった話とか、予定の素材が思うような大きさではないとか、本番に臨む前に計画通りにいかない複数の事案でした。しかし、経験豊富な佐藤さんの的確な助言もあり、そのアクシデントやトラブルも挑戦への一つとして乗り越えていこうと、改めて前向きに頑張っていこうとする二人の決意を感じた時間でもありました。

 

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二人にエールを送る花房美香さん(左)と佐藤麻貴子さん(右)

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パーゴラや家具の作成をお願いしているデイブさんと打ち合わせ☆

 

5月上旬から現場での施工がはじまります。今は、その前の準備に追われているそうです。そして、国を越えて多くの関係者が、一つの庭を表現するために二人に協力をしてくれています。どんな結果が待っているかは、わかりません。しかし、今は結果を追うのではなく、自分たちが表現したい庭を、試行錯誤しながらも、準備できた素材で、最大限の力でつくってほしいと思います。そして、これからきっと登場するであろう、同業の挑戦者たちの励みになるよう、精一杯頑張って、そして楽しんできてほしいと願っています。

 

チェルシー・フラワー・ショー、本番まであとわずかです。
まだまだ、資金的な応援も受け付けています。下記、木野花計画までお問い合わせください。

 

(写真提供:柏倉一統、佐藤未季)

 

木野花園計画(柏倉一統)
http://kinokaen.com/web/

 

未季庭園設計事務所(佐藤未季)
https://www.facebook.com/

 

YouTube「漢方の庭」二人へのインタビュー
https://youtu.be/DgFXaOCavBM

 

前回のチェルシーフラワーショーの記事はこちら→

 

写真・文 出澤清明(いでさわ・きよあき)
園芸誌の元編集長。現在、園芸普及家として、各所に取材に出かけながら、さまざまな花と緑の楽しさを発信している。

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