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青いケシ 魅惑の花とは

青いケシ 魅惑の花とは

先月、1冊の本が世に出ました。『青いケシ大図鑑』です。著者は吉田外司夫さん。吉田さんは元々は植物写真家ですが、1984年から、ヒマラヤ山脈から中国南西部の横断山脈にまたがるシノヒマラヤと呼ばれる地域に毎年のように入り、植物の撮影を精力的に行う中で、このエリアに原生する数々のメコノプシス(Meconopsis)と出会い、惹かれていったといいます。

青いケシ大図鑑

『青いケシ大図鑑』吉田外司夫 平凡社刊

その後、東京大学総合研究資料館客員研究員として植物の採集調査にも従事し、2006年以降、メコノプシスの新種探しと分類研究に専念してきました。2012年には「青いケシ研究会 Blue Poppy Society Japan」」を設立、研究会を主宰しながら、数々の論文を発表してきました。

『青いケシ大図鑑』から

『青いケシ大図鑑』から

今回、その集大成として著したのが『青いケシ大図鑑』平凡社刊です。ここには吉田さんが発見した新種24種を含む全90種と亜種・変種34種が、さすが植物写真家である吉田さんの写真と一般の方向けに明快な解説で紹介されています。その吉田さんに話を聞きました。

 

――吉田さんが青いケシに魅せられたのはなぜです

 

「第一にあの青色の魅力です。それから青いケシの仲間(メコノプシス属植物)には多様な花色があることを知り、その微妙な変化や多様性に惹かれました」

 

――この本を世に出した思いは何でしょう。そしてタイトルを青いケシとしたのは?

 

「メコノプシス属植物の私のこれまでの写真撮影と調査研究の成果を取り入れ、この仲間のすべての種類を網羅して集大成した本を日本で出したかったからです。タイトルの植物名を「メコノプシス」ではなくて「青いケシ」としたのは、イギリスでもこの仲間が「ブルーポピー」の名で親しまれているように、日本でもそれを翻訳した「青いケシ」の名で一般に知られているからです。しかし英語の副題はPictorial Guide to Meconopsisとしました」。

 

――今後みなさんにどう青いケシを楽しんでもらいたいですか

 

「日本の植物園でも最近多く栽培されるようになった青いケシの園芸種の花をまず間近に見てその花色の魅力を知ってもらい、それから可能ならヒマラヤや中国西部に自生するこの仲間全体の多様性と花の美しさ、園芸化されていない小形種の魅力も堪能してもらいたいです」

◎吉田外司夫さん発見の新種から

ブータニカ

ブータニカ  M. bhutanica

吉田さんとグレイ・ウィルソン氏との共著で新種として発表されたブータンの固有種。

アトロヴィノサ

アトロヴィノサ M. atrovinosa

吉田さんが最後に発表した新種で四川省南西部に生える。

 

さて、メコノプシスが日本で初めて一般に紹介されたのは1900年、大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」通称、花博です。その頃、園芸誌の編集をしていた私も花博会場で見ました。そして、誌面で取り上げたり、デパートの園芸イベントで開花株の展示に挑戦したりと、その頃はちょっとしたブームみたいなところがありました。

多種多様なメコノプシスの花いろいろ

多種多様なメコノプシスの花いろいろ

特に当時広まった「ヒマラヤの青いケシ」というキャッチコピーがとても印象的で、多くの人に夢と憧れを与えました。確かに、吉田さんも魅了されたように類を見ないほどの美しい青い花色ですが、メコノプシスの呼び名だけだったらこれほどまでに長い間、人々を魅了したかどうかわかりません。

『青いケシ大図鑑』から

『青いケシ大図鑑』から

吉田さん自身は栽培家でも学者でもないと謙遜されますが、市井の研究家として、青いケシについて、以下のような文章を寄せてくれました。

 

メコノプシス属は地質学的にはつい最近の温暖期と寒冷期が交替する新生代第四期に急激に多様化した植物グループの一つで、種分化の歴史が浅いために近縁種との違いがあまり大きくなく、雑種をつくりやすいという性質があります。自然界では地理的・地形的な隔離によって種の特徴が保たれていますが、植物園や庭園で隣接して植えられると近縁種の間で容易に自然交雑して雑種をつくってしまいます。その中で花が美しくて特徴が際立ったものにこれまで園芸品種名がつけられてきました。

 

しかし、それらの園芸品種がどのような経緯で作出されたのかははっきりしません。その問題を解決するために、青いケシ栽培の世界的な中心地であるスコットランドのエジンバラ植物園を本拠地として、1998年にメコノプシス・グループが創設され、植物園の一角の圃場にすべての重要な園芸種が集められ、自然交雑しないように厳重に管理され、DNA解析を含む研究が続けられてきました。その結果、今では園芸品種群のかなりの部分の実態が解明されました。現在ではこのメコノプシス・グループが国際園芸植物命名規約に基づいて園芸品種名の科学的管理も行っています。

 

※メコノプシス・グループ https://themeconopsisgroup.org

 

日本で栽培されている青いケシの園芸種はイギリスから移入されたものですが、残念ながら日本では青いケシの栽培家はいても研究者は存在せず、イギリスの輸出業者が便宜的につけた名前がそのまま使われてきたのが現状です。日本の植物園などで青いケシの名前で栽培されている種類の8割くらいはシェルドニーという種類です。しかし、このMeconopsis x sheldoniiは正式に論文で発表された園芸品種名ではなく、ある雑種群を総称する非合法名なので、イギリスの園芸界ではすでにほとんど使われなくなっています。日本の植物園ではほかにベトニキフォリ(M. betonicifolia)やグランディス(M. grandis)の名前で栽培されているものもありますが、それらの正真正銘の野生種が園芸品種群の作成にとくに寄与したという証拠はありません。野生種の名前がそのままつけられたこれらの名前は、アルパイン・ガーデン・ソサエティーのグレイ・ウィルソン氏が2014年にメコノプシス属を集大成した画期的な本(The Genus Meconopsis—Blue poppies and their relatives)を出版する前の、1937年のジョージ・テイラーによってまとめられた非常に大雑把な古い分類に基づく名前です。

ベトニキフォリア

ベトニキフォリア M. betonicifolia

雲南省に分布し、園芸的には使われていない。

 

最新のメコノプシス分類学でいうと、青いケシ園芸品種群の作成に寄与したのはチベット南東部に生えるバイレイー(M. baileyi)やブータン東部とその周辺に生えるガキディアナ(M. gakyidiana)そしてシンプリキフォリアの亜種であるグランディフロラ(M. simplicifolia subsp. Grandifolia)などといわれています。今回の『青いケシ大図鑑』は2014年以後の研究成果を取り入れてグレイ・ウィルソン氏の本をアップデートしたもので、扱う野生種は12種増えています。

バイレイー

バイレイー  M. baileyi

1937年のジョージ・テイラー以来ベトニキフォリアに含められてきたが、最近の研究でそれとは別種であることが判明し、最初に名づけられた種名が復活した。これも園芸品種の重要な原種。

ガキディアナ

ガキディアナ M. gakyidiana

従来はグランディスに含められてきたが、最近の研究でシッキムや東ネパールに分布する典型的なグランディスとは別種であることが判明し、新しい種名がつけられた。園芸品種のもっとも重要な原種。

シンプリキフォリアの亜種グランディフロラ

シンプリキフォリアの亜種グランディフロラ M. simplicifolia subsp. grandiflora

園芸品種の交配親のひとつ。

 

メコノプシス属植物の種で圧倒的に多いのは園芸植物になっている多年性の大形植物ではなく、一度花を咲かせると枯れてしまう1回結実性の小形種です。このような小形種は厳しい環境に生えるものが多く、毎年種子を採取して更新しなければならないので、栽培は非常に困難ですが、イギリスではこのような栽培困難種に挑戦する人も増えています。ちなみに1回結実性の種類ではホリドゥラがよく知られ、その名前で園芸化もされていますが、これもJ・D・フッカーが最初にシッキムで採集した正真正銘のホリドゥラではなく、別の種を主体に温和な環境でも育つように改良されたものといわれています。

ホリドゥラ

ホリドゥラ M. horridula

1回結実性で、無茎。栽培はむずかしい。

(以上)

 

 

一口に青いケシといっても、多種多様です。日本にいて目にできる青いケシは多くの種類の中のごくわずかです。しかし、現地に行くことは容易ではありませんし、新型コロナウイルス感染拡大以降、海外への渡航はほぼできない状態が続いています。そういった意味でも、吉田さんの集大成『青いケシ大図鑑』は世界的にみても大変貴重な一書といえます。

吉田外司夫さん、ブータン農林省生物多様センター研究員と。周囲の青花はガキディアナ

吉田外司夫さん、ブータン農林省生物多様センター研究員と。周囲の青花はガキディアナ(M. gakyidiana)

日光水生植物園の青いケシ

日光水生植物園の青いケシ。撮影:出澤清明

最後に、青いケシを日本で見られる代表的なスポットをご紹介します。

 

まず、東京では小平市にある「東京都薬用植物園」です。冷室で栽培して窓越しに花が見られます。関東では、神奈川県の「箱根湿性花園」と栃木県の「日光水生植物園」で見られます。長野県白馬村の標高1,600メートルにある「白馬高山植物園」では、広い園地の路地で見られます。大阪府の「咲くやこの花館」は、花博会場にもなったところで、通年で見られるようにしています。兵庫県の「六甲高山植物園」でも見られます。長野県大鹿村の「中村農園」や北海道の「滝野すずらん公園」や「大雪の森ガーデン」など、いくつかのガーデンでは多くの株を開花させています。いずれも、開花が見られない場合や新型コロナウイルス関連で休園の場合などもありますので、時期になったら確認の上で訪問願います。

冬でも草花で彩られているアナガーデン

東京都薬用植物園(窓越し)

東京都薬用植物園(窓越し) 写真・出澤清明

箱根湿性花園の植栽 写真・出澤清明

箱根湿性花園の植栽 写真・出澤清明

六甲高山植物園での植栽

六甲高山植物園での植栽

写真:撮影者記載以外は吉田外司夫氏撮影

・『青いケシ大図鑑』  heibonsha.co.jp

・青いケシ研究会 sinohimalaya.com

 

取材・構成 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。

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