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イギリス便り(10月)2018春から夏を振り返って

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この夏の猛暑は世界中で発生し、各地で大きなニュースとなりました。自然界と共に歩んでいる園芸業界の私たちはもっと早くに何かが変わり始めている事に気がついていたのではないだろうか、そんなことをよく考えた夏でした。何かがおかしいと初めて感じたのは15年程前のロンドン。咲くはずのない時期にサクラが咲いた時です。

今回は、庭づくりについて、この夏、私が感じたことをまとめてみました。

 

a   ▲グレート ディクスター ハイガーデン(撮影7月)

 

チェルシーフラワーショー

英国王立園芸協会主催のチェルシーフラワーショー2018です。昨年のメインアベニューを飾るショーガーデンへの参加は8つの庭園。EU離脱のニュースの影響を受け、先行き不安な情勢を目の前にして、いくつものスポンサーが参加に待ったをかけた結果の数でした。

今年の参加は10の庭園と、なんとか二桁を守りました。世界一最も権威あるフラワーショーとして、その発信力と存在力が確立されている中、スポンサーは大手の企業、団体が名を連ねます。そのため、フラワーショー 自体が社会情勢にはとても敏感に反応していることは言うまでもありません。それぞれの庭のコンセプトについても、それらのスポンサーの意向が強く反映されていることを知る事はフラワーショーを楽しむ上で大切です。

 

今年のショーガーデンにおけるベストインショーは“ザ モルガン スタンレーによる NSPCC”でした(NSPCC=英国児童虐待防止協会)。投資銀行であるモルガンスタンレーがスポンサーの庭です。モルガンスタンレーはこの庭の参加を通して、いま問題になっている児童虐待について、人々に関心を持ってもらうことに努めました。スポンサーの意向を受けたデザイナーのクリスベアドゥショーは、NSPCCの活動によって守られた、虐待を受けた子どもの心の感情の移行を、庭の地形と植栽の配置により表現しました。    

200㎡の広さの庭は落ち着いた配色の低木、中木の入り口からはじまり、進んでいくその道の植栽はやさしくも暖かさのある色彩へと移り変わります。そして水の反射の美しい心休まる穏やかな場所へ導かれます。虐待により閉ざされた子ども達の心の闇が、差し伸べられた手により暖かに、やさしく変化する心の様子をデザインした庭となりました。

“ザ モルガン スタンレーによる NSPCC”の庭

b   ▲庭への入口

 

c   ▲入口より進んでいくとパビリオンがある

 

d   ▲パビリオンの周りには池が作られており、水の音も心地よく聞こえる

 

ハンプトンコートフラワーショー

英国王立園芸協会主催ハンプトンコートフラワーショー では、昨年より教育部門の庭の設営に携わりました。巨大なドームを使用する事でドーム内の自然環境を調節します。調整した上で伝えたいテーマを庭として、植栽、構造物で表現してきました。

昨年はバタフライドーム。20mの広さと10mの高さのあるドーム内では南国の大木を30種、4,500ほどの南国の植物、2,500もの南国のチョウを紹介しました。ドームの外ではイギリスの自生の植物でフラワーメドウをつくりました。イギリスの自生のハチやチョウが好む種です。ドーム内の南国のチョウはウィズリー植物園で育てられ、サナギの状態でお引越しをしてきたチョウたちも。サナギたちは新たな住処を見つけるとすぐに環境に反応しふ化していきます。一方、外のフラワーメドウでは環境が整うと、イギリスの自生のハチやチョウが連れられる訳でもなく自然に花の蜜に誘われ戯れ始める姿が楽しめました。

今年は450億年前のまだ地球に何も存在しなかった時代から今に至る“植物の進化” の道のりをドームの外から中へ、また外へとつくり上げていきました。使用した植物の数は約4,000、そのほかにコケ類や、高中木もたくさん使用しています。地球に生命体が誕生した頃の植物は胞子やコケ類などでした。その後、モンキーパズルやソテツという木々が出現しますが、葉類についてはシダ類のみ。時代を経て少しずつ色や形に変化が現れていきます。メタセコイアもこの時代に出現します。まだ花類はありません。そして、氷河期が起こり、生物体に変化が訪れます。時代は進み、花類として地球に初めて誕生したのはマグノリアとクロバナロウバイ属、そして花色とともに改良が進み豊富な品種の時代へと進んで行きます。

最後まで植栽の配置が分かりやすいかどうか何度も見直す作業中、私たち人間とともに進化してきた植物達の生命力を目の当たりにし、私はなんとなく問いただされた気持ちになりました。私たちの生活の進化の道は正しかったのだろうか……と。

ハンプトンコートフラワーショー2018“植物の進化”

f   ▲ドームへの入口。450億年前は生命体は胞子などのみ

 

g   ▲シダ類やソテツなどが誕生し始める

 

h   ▲クロロウバイの花

 

e   ▲技術も進化し多種多様の植物達が世に誕生していく

トレンドカラー

チェルシーフラワーショーの記事では、今年のトレンドのカラーは黄色とお伝えしました。元気色である黄色は明るい未来を想像させます。花の種類もチューリップ、カタクリからオミナエシまで、季節を問わず探せます。一年草の黄色は今年のアクセントとして。黄色の斑入りの低木は明るさを表現するための庭のフレームとしてなど、取り入れてみて下さい。

 

i                ▲チェルシーフラワーショー のメインスポンサーであるM&Gガーデンデザイナー
セーラ プライス 金賞受賞 今年のトレンドカラーとなる黄色の花が至る所でアクセントに

j   ▲スペース トゥ  グロウ 部門 金賞受賞
デザイナー / キャサリン マクドナルド ノンアルコールのジンを生産しているシードリップ社がスポンサー。
全てマメ科の植物を使った植栽で企画されている

 

イギリス便り10月

▲スペース トゥ  グロウ 部門 金賞受賞

デザイナー / トニーウッド

スペースを最大限に生かした配置をしながらも植栽で華やかさが足された庭に

 

おわりに

 フラワーショー のお話を楽しみにされる皆様がいらっしゃる一方で、ともすると海外のフラワーショー について、遥か遠くの花と緑の世界と感じられる方がおられる事を感じる機会もありました。

今回は、花と緑の織りなすスケール感ではなく、私たち人間は自然とともに生きてきたこと。また、その自然をもう少し近い距離として感じて頂ける機会になればと思い、フラワーショー の出来事を通して花と緑、庭づくりについて書いてみました。

日本の多くの生産者の方々は一人でも多くの方に花と緑を届けようと汗水流してつくってくれています。また日本にはたくさんの素晴らしい自生種も存在します。失敗を恐れず好きなものから皆さまのスペースに取り入れてみて欲しいと思います。

もちろん失敗を恐れずに、とお伝えしましたが、植物は一つひとつ育つ状況が異なり、どこでもなんでもよい訳ではありません。今は本だけでなく、ウエブ情報も充実していますので活用されるのもよいと思います。命あるものとして互いの距離が近くなった時、花や緑は輝きだしその命に呼応して私たちの命も輝きます。この輝く気持ちが植物を育てたり、庭をつくる上で最も大切なことではないかと私は思います。

 

 一人でも多くの方に、花や緑、庭づくりをもっと身近かに楽しんで頂けたらと願い、私が夏、しごとをしているイギリスのことを書きました。イギリスでもそうですが、“楽しい” ‘が最大のキーワードです。秋は庭づくりをはじめるのに最適な季節です。ぜひ楽しいガーデニングを始めるきっかけとなればうれしい限りです。

 

 

佐藤さん

 佐藤麻貴子 Profile
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。

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