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佐藤麻貴子のイギリス便り-2021春

佐藤麻貴子のイギリス便り-2021春
イングリッシュブルーベル

イングリッシュブルーベル 草丈15cmほど。森林の中に広がると綺麗なブルーのカーペットが出現したみたい。今年は特に、この早春の花を待ち侘びた人が多く見られた。

 

 

イギリスのオンライン事情

イギリスの園芸業界では例年12月くらいからにわかにチェルシー・フラワー・ショーの話題が聞こえてきます。そうこうしているうちに、園芸雑誌などではその年のチェルシー・フラワー・ショーの様子が伝えられ、トレンドアイテムへと話が盛り上がります。そして季節は春に向かい、開催の5月を迎えます。

チェルシー・フラワー・ショー

2019年チェルシー・フラワー・ショーの様子

 

2020年は、2月末頃にはまさかのヨーロッパ感染拡大のニュースが聞こえ始めました。その頃ちょうど案件があり、イギリス側とやり取りをしていると、事態は日に日に変わり、イギリス政府の意向を受け、早々にチェルシー・フラワー・ショー5月開催中止のニュースが飛び込んできました。それから数日後に発表された、史上初のバーチャル・チェルシー・フラワー・ショー開催決定には、いざという時のイギリスの対応力の底力を垣間見た瞬間でした。イギリス生活において、世代を超えてオンラインユーザーが多い事は以前から感じていましたが、このコロナ禍において、デジタル化のシステムとオンライン利用者がさらに整った事は言うまでもありません。

 

イギリス便り

2019年は初参加の日本人コンビが金賞を受賞し大きな話題になった。金賞を受賞してインタビューを受ける、柏倉一統さんと佐藤未希さん

 

 

イギリスにおけるオンラインショッピング

ガーデナーとして身を置く南西部にあるグレートディクスターでは、昔ながらの庭の維持方法を心がけ、古きよきやり方を守る事を大切にしていました。庭で使う植物も自分たちで育てており、苗の販売もしています。もちろんオンラインショップは以前より充実していましたが、コロナ禍において売り上げに伸びが見られていました。イギリスにおいてもおうち時間の需要が高まり、園芸ツールのほとんどはオンラインショッピングにシフトされたようです。私が一番驚いたのは、宅配サービスのプラットフォームが確立された事です。指定通りに届く日本とは大きく違い、イギリスではまったく信用できないサービスの一つに郵便、宅配がありました。

 

イギリス便り

グレートディクスター

 

イギリス便り

グレートディクスターのホームページにある苗の通販画面

 

そんな矢先にガーデンデザイン業界で聞こえてきたのは、オンラインにおける ‘庭のデザインのご提案パッケージ’提供、というフレーズでした。なるほど。移動もなく、距離も問題にする必要はありません。私もさっそく取り入れてみました。現状を直視しての現況確認は大切ですが、庭のデザインは机の上で叩きます。できない事ではありません。一方でコミュニケーションを密に取る必要がありそうです。それでもご依頼頂いた庭のリフォーム案件を進めてみることとなりました。

 

 

オンラインによる庭のデザイン・施工が始まる

最初にいただいた問い合わせの際には、すでに庭の現況写真が送られていました。クライアントの未来像はこの時点ですでに明確でした。「先行きに不安が残る中、庭の未来への余力を残しながら、庭としての機能を回復させる」こと。続いて、庭を撮影したビデオが届きました。拝見すると、それまでの忙しい日々が想像できました。ならば、家族で団欒のできる庭にしよう。人が集まれる空間にしよう。この庭のデザインコンセプトはそう決めました。

 

イギリス便り

かなり放っておかれていた施工前の庭の写真(9月)。

 

全体のイメージのリクエストはイングリッシュガーデンでした。初のオンライン受注でしたが、イングリッシュガーデンがお好みと伺い少し緊張がほぐれました。何度かのオンライン打ち合わせの後、方向性が固まっていきました。その頃には現場で作業にあたってくれるチームも決定し、施工がスタート。そしていよいよ植栽当日を迎えていきます。

 

イギリス便り

まずは骨格となる部分を整形(11月)。

 

イギリス便り

植栽プランをもとにグレートディクスターの苗が並べられた。それぞれに必要な間隔を保つ事は大切。ここは何度も画像をやり取りしながら、最終決定を迎えた(3月)。

 

時差の中、現場が動いている間はイギリス時間でこちらも待機。直接見届けられないストレスを抱えるものの、あとは信頼のみと腹に決め見届けるばかりです。電話もWi-Fiさえあれば今では無料で通話ができます。写真どころか動画も届きます。一番不安であった植物の手配は、植栽リストを在庫より叩き、注文の数日後にはクライアント様にお届けする事ができました。ここはもちろんグレートディクスターに発注です。仕上げの芝生の納品では何度か変更を余儀なくされましたが、無事にすべての施工を終了。時代は大きく変わりました。

 

イギリス便り

2021・4月竣工。好きな樹木のみ残し、植栽地を明確化。植栽地は四季を楽しめるプランニングをした。植えられたのは約20種の苗。少しずつ野菜やハーブも育ててみたい、という希望により、手前の左にはコンテナガーデンからガーデニングを楽しめるようにしている。右側の木はあえて残し、未来へと続く様子を表すポイントとした。

 

イギリス便り

トライアルとして使用しているミニガーデン。気がつけば次々と咲くチューリップも終わりに近づき、ホワイトガーデンに。ここからたくさんの色が重なり庭の見所を迎える。自然を見つめていると、一年が過ぎるのが早いこと、早いこと(4月)。

 

 

チェルシー・フラワー・ショー2021

2021年のチェルシー・フラワー・ショーは5月開催でスタートしたものの、重なる感染拡大に9月に変更となりました。飛び込んでくるニュースや記事では、「初の9月開催。この時期ならではの植栽をぜひ楽しんで欲しい」と明るく楽しく紹介されています。例年の5月については昨年同様バーチャル開催となりました。バーチャル開催では、気になる内容で、ピンポイントで参加できる点は思ったより悪くなく、参加の充実感は十分です。

 

イギリス便り

ホームページのトップには今年秋の開催が告知されている

 

 

コロナ禍において思う事

お互いの思いやりを忘れずに、試行錯誤しながら日々を過ごす事で見つかる大切なものがあります。今回の初のオンラインによる庭の施工終了後に、ご本人より歓声と共に喜びのメッセージが音声で届いた時には胸が熱くなりました。今年は帰省されるご家族と共にBBQを楽しむ姿が目に浮かびます。

 

イギリス便り

イギリスでも‘おうち時間’が増えたことによりPodcast は人気上昇。このPlant Based Podcastでは花や緑の育て方のみならず、生活の中での多様な使い方、異なる文化や生産者のお話など多角的な内容で花や緑を紹介している。先日、イギリス国内の園芸部門、人気投票では1位を獲得。私もインタビューを受け、話題は侘び寂びから森林浴にまで及び、日本の園芸文化を伝えた。Michaelは世界でシェアを誇る種苗会社のThompson and Morganに勤めていた経緯もあり知識は豊富。 Ellenは身近に楽しめるガーデニングライフを書籍、番組、S N Sを通し紹介している。台本なしのインタビューだったが、‘森林浴’といきなり英語で尋ねられたのにはびっくり。日本の文化が欧米にもたらす影響力についてもあらためて考えるひとときとなった。

 

イギリス便り

日頃よりインドアプラントも上手に紹介している二人だが、このリースやグリーンボールのアイディアは日本ではお馴染み。色の使い方や形のアイディアにひと工夫して、一味違った楽しみ方を紹介している。

 

人間らしい日々を過ごすには自然に触れる機会を持つことは大切であると言われています。イギリスでも‘おうち時間’が増えた事で、庭の手入れやインテリアとして植物を生活に取り入れる人々が増えました。‘幸福度=ウェルビーイング’という言葉は、イギリスでは‘自然に触れること

’を通して紹介されています。この未曾有の機会を通して、皆さまにもぜひ小さなひと苗を手に取っていただき、そのきっかけを掴んでいただけたらうれしく思います。

 

イギリス便り

イギリスのスーパーでは蘭を買い求める事が容易にできる。花期が長く、華やかで存在感のある蘭はインドアプラントとしてとても人気のアイテム。各家庭にひとつはあると言ってもいいほど。ギフトとしてもよく使われている。

 

イギリス便り

イギリス発信の今年の春のS N Sでは桜の写真をよく見かけた。ナショナルトラスト(歴史的名所や自然的景勝地の保護団体)では、コロナ感染による未曾有の災害に様々は想いを重ね、毎年美しく咲く桜を植える運動を展開している。日本で見かけるソメイヨシノより、‘太白’や‘関山’など、八重の桜を多く見かけた。

 

 

 

 

佐藤麻貴子

佐藤麻貴子

ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。

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