KEIKOさんの鎌倉・谷戸から花便り8 鎌倉中央公園の秋・里山の景色と野草を訪ねて
鎌倉の秋の花、といったら何を思い浮かべる方が多いでしょう。紫陽花や紅葉、桜ほどたくさんの観光客は集めずとも、秋の七草や市の花・リンドウなどが人気ありそうです。
私ももちろん楽しみにしていますが、それとはまた違った風情で咲く野の花の群生に、近くで出会えるのも鎌倉住まいならでは。中でも広い谷戸の地形を生かした鎌倉中央公園の湿地に咲くツリフネソウは、毎年開花を気にかけている花です。同じ秋の盛りに咲くオオミゾソバも一緒に見られますが、鮮やか色で大きい花形のツリフネソウの華やかさは抜群。そこで開花前後に公園を訪ねることが多く、ここで初めて実物を見た秋の花や実もさまざまあります。
ところが今年の秋は関東地方と広い範囲を襲った台風が、鎌倉の自然にも多大な被害をもたらしました。9月の15号のあと、倒木や中折れした樹木、土砂災害の整備が追いつかずにハイキングコースは通行止めになっています。公園内も被災しましたが、当初閉鎖していた園路などが徐々に開通しているということで、まずは9月下旬に様子を見に行きました。この時期は田圃に実った稲や用意された稲架の情景、ツルボの群生に出会えます。
初秋の花と田圃の風景
鎌倉中央公園は鎌倉市内に4カ所ある風致公園のひとつ(一般的な大規模公園はほかにも5カ所)。北鎌倉西側の丘陵に位置する里山と田畑の景観が残る自然豊かな公園です。市との協同で進めるNPO山崎・谷戸の会の活動も盛んで、景観と生態系の保全に力を尽くしています。
農作業の伝承として稲作を続けている谷戸田には、鎌倉市内ではほとんど見かけることができなくなった懐かしい風景があります。稲の実る頃、田圃の周りの畑のある斜面ではツルボが満開。ピンクの中に稀少な白花を見つけるには遊びがいのある広さの群落でした。稲刈り後は同じ畑へ上る斜面がヤマハッカの薄紫で彩られます。
初秋の公園内では秋らしい楚々とした花にたくさん出会えます。そして9月と10月では花数が違ったり、木の実の色づきが進んで鮮やかに目立つようになってきたりするので、日を改めて出かける価値があります。
台風の被害は……
9月の15号で鎌倉では風害による被災が多く、19号が重なったこともあり谷戸や山では倒木や中折れした樹木、土砂災害などによる通行止めの解除が遅れていました。
公園でも山道コースが多い散在ガ池森林公園は閉園が長期に渡り、広町緑地や夫婦池公園は一部の山道が通行止めでした。鎌倉中央公園は9月下旬には田圃の南側散策路のみ通行止めでしたが、いち早く通常開園できて秋のイベントも開催されています。ただし通路や危険な倒木、折れ枝の整備は進めたとはいえ、まだまだ被害の痕跡は目に入るので自然災害の大きな力を改めて感じさせます。
北鎌倉から一番近い梶原口の周りは倒木がありましたが通路は開通していて、車道から住宅街を通れば入ることができます。私はいつもハイキングコースから行くのが好きだったのでちょっと残念。この機会に別の行き方を試してみました。
アクセスは鎌倉市公園協会のホームページに詳しく載っていますが、楽に行こうとしたら鎌倉駅からメインの清水塚口から入る公園内着のバスで。ただし本数がとても少ないです。最寄り駅から15分程度の歩きを覚悟するなら大船駅からモノレール湘南町屋駅下車で。帰り道はどちらかというと下り坂になるので、徒歩約30分の北鎌倉駅まで散歩するのもいいかもしれません。このコースならばお休みできるカフェもいくつか見つけられます。
現在公園内にはベンチや遊具はありますが、カフェはないのでランチ時間帯をはさむならばお弁当持参で行きたいですね。広い鎌倉中央公園内はいくつかのゾーンに分けられているので、園内マップで確認を。
鎌倉市公園協会のホームページから「てくてく日和」をダウンロードして持っていくのもおすすめです。
稲刈りが済み、稲架のある谷戸風景 10月は湿地の生き物や花もたくさん
鎌倉中央公園の東側にある「山崎の谷戸」は東谷戸、小段谷戸と呼ばれる2ヶ所に田圃があり、昔から耕作が続けられてきました。また南向き斜面では畑作が行われ、山の手入れも欠かさず、それらの副産物も循環利用する無駄のない営みがあったのです。今はここでの体験会や農作業に参加することで、子どもたちにも里山の暮らしを伝えていこうとの活動がなされています。
例年、稲刈りは10月第1週末から。ツリフネソウ開花ピークの10月中旬に行くと、田圃の脇には稲穂のかかった稲架(はさ)が見られます。
こうして谷戸の環境を維持することによって、狭い場所でも多くの生き物が見かけられ、豊かな生態系が守られていると感じます。
畑では学習用に昔からの作物も育て、 周囲の斜面には花園があちこちに
谷戸の底地にある水田と違い、周囲の尾根からの南向き斜面に開墾された畑では小豆や胡麻などと野菜が育てられています。また、昔もめん畑だったという場所には近くの小学校の学習用綿畑があり、白い綿の実と茶色の綿の実が見られました。
その畑作のための手入れがされている日当たりのよい斜面では、湿地とは異なる野草の群落が花園になっています。9月にツルボが咲いていたところにはヤマハッカが。また、センニンソウは終わり、イヌタデやシロノセンダングサの花数がふえていました。
木の実、草の実が色づいて目立ってきます
秋が深まると紅葉も見どころのひとつですが、10月はそろそろ気配が感じられる程度でした。山崎口と下池の間にはカツラ、メタセコイア、ラクウショウなどの植栽があって、カツラのハート形の黄葉と甘い香りはチェックしたいポイントです。
また公園のあちこちで草の実が目立ち、木の実の色づきが進みます。冬鳥の渡る季節が近くなり、花や実が終わっても樹木の冬芽などを確認したり、陽だまりの斜面に早いスミレの蕾を見つけたりする別の楽しみが待つ冬の公園もいいものです。
これからもずっと鎌倉中央公園の豊かな自然と里山文化の保全が期待されますが、それには行政と市民の協同参画が欠かせません。
また現在は「鎌倉中央公園拡大区域」と位置づけられている隣接する「台峯緑地」の状況も気になります。こちらは長年にわたる保全活動で大規模宅地開発事業計画を防ぐことができた地域で、鎌倉市の公園整備事業として2007年に「(仮称)山崎・台峯緑地基本計画」が発表されています。そこでは10年後以降に供用開始となっていて、その後平成33年(令和3年)全面供用開始としているのですが、まだ開園の具体的なスケジュールは明らかになっていません。
とはいえ詳細な事業計画もあり、通りすがりに見られる「山ノ内配水池入口」などの施設整備は進んでいるようです。新しい公園名称は台峯保全活動の経緯から市民の意見に基づいて決めるとしているので、どのような公園名になるのかも含めて興味深く見守っていきたいと思っています。
鎌倉中央公園
鎌倉中央公園は約 23.7(隣接する都市計画決定区域を含めると51.2)ヘクタールの豊かな自然を生かし、「人と自然」・「人と人」の交流の場として位置づけられた風致公園です。公園内では農業体験や花壇づくりなどの多様な余暇活動やボランティア活動が行われ、「緑の相談所」が開設されるなど、 都市緑化植物園として緑化推進の拠点にもなっています。
里山エリアに残された田・畑では、市民活動団体の手によって継続した活動が行われ、自然環境の保全と同時に、地域に 残された生活文化の継承にも取り組んでいます。
鎌倉市山崎1667 電話0467(45)2750
開園 8:30~17:15(7、8月は 7:30~18:00)*休園日なし
KEIKOさん
北鎌倉に越す以前、東京時代の仕事は雑誌編集者。マンションのベランダと戸建ての庭でのガーデニング経験あり。昔はタネから育てたり、品種コレクションを頑張ったこともあるけれど、いまは気楽に自然体の庭づくりを楽しんでいる。鎌倉や旅先では寺社の庭や公園・緑地の季節の花を見たり撮影したりする散歩好き。
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