サワラ(鰆)

2024.02.26

旬:12~2月(関東)
  3~5月(関西)
主産地:京都府、福井県、長崎県

サワラ(鰆)を選ぶ

「魚」偏に「春」と書いて、「鰆(さわら)」、旬は春?それとも冬?

サワラは5~6月にかけて、産卵のため瀬戸内海に集まってきます。昔からこの時季にたくさん獲ることができたため、関西では春が旬と認識されてきました。一方の関東では、産卵期前の脂がのった12~2月の「寒ザワラ」が好まれるため、旬は冬だと認識されています。関西も関東もどちらのサワラもそれぞれ違った美味しさがあって美味しいですが、産卵を終えたばかりの夏のサワラはNGです。

ほっそりした体形の魚ですので、お腹で脂の乗りをチェック

旬の時期に選ぶサワラは、魚体を確認します。ポイントは「お腹」。鰆を別の漢字で書くと「狭腹」、「サ」は狭い、「ハラ」は腹を意味し、腹が狭くスマートな体形と言うのが語源です。脂の乗ったサワラは腹自体も丸みとハリがあり、「狭さ」を感じさせない体型です。身のしっかりしてかたいもの。目が澄んで、体色が銀色に光っており、斑紋がはっきりしているものが新鮮です。

切り身で買うなら「尾の身」を

一般的な魚を切り身で買う場合、尾の方よりも頭側を食べたいと思いますが、サワラは尾の方が美味しいです(皮が少し硬いですが)。切り身を選ぶ時は身の色を確認します。サワラは傷みが早い魚ですので、鮮度の良いときは透明感のある白身ですが、すぐに白く濁ってしまいます。また、身割れがしやすいので、身が割れていないもの、血合い部分の色がなるべく鮮やかなものを選びましょう。

サワラ(鰆)のおいしい食べ方

水分が多く身が柔らかいので、少し触っただけでも身割れしてしまう魚

サワラは刺身、西京焼き、照り焼き、塩焼きなどどれで食べても美味しいですが、僕のおススメは「焼き霜の刺身」です。冬のサワラは脂肪が14~16%に達し、トロリとした食感でマグロの中トロに匹敵するとまで言われています。サワラは柔らかい身肉のため皮をつけたまま切りつけます。サワラは皮と身の間に独特の香りと旨みがありますので、皮目をバーナーで軽く炙ると、香ばしく、皮も歯切れが良くなり旨みが濃厚になります。また脂が乗っているので、塩焼きも美味しいです。軽く塩を振って締めて焼くときれいに焼けます。料理人の方は魚に対して均等に塩を振ることが出来ますが、それが上手に出来ない場合は、手に塩を付けて、それを魚に付けていくようにすると均等に塩が付きます。(ウエカツさんに教えて頂きました)春に旬を迎える関西では西京漬けのほか、幽庵焼き、照り焼き、塩焼き、かぶら蒸し、押し寿司など様々な食べ方があります。冬に旬を迎える関東では、刺身や塩焼き、西京漬けが中心となっています。ちょっと触っただけでも傷ついてしまう繊細な魚ですので、調理時は丁寧に扱うことが必要です。

サワラの焼き霜造り。皮と身の間に独特の香りと旨みがあります

春のサワラは脂が少なく淡白なので、西京漬けや幽庵焼きにします

寒ザワラのオードブル。和洋問わず料理にしやすい食材です

サワラは傷つきやすいので専用の箱で出荷されます

サワラ(鰆)の豆知識

カラスミはボラの卵ではなく、サワラの卵が最初

狭いことを「サ」と言い、秋刀魚(サンマ)、細魚(サヨリ)もそのカラダの細いことからその名前がつけられています。サワラはカラダの大きさで呼び名が違う出世魚です。関西では約50センチ位までのものをサゴシと呼び、50センチから70センチ位のものをヤナギ、70センチ以上をサワラと呼びます。関東では、約50センチ位までのものをサゴチと呼び、50センチ以上をサワラと呼びます。サワラの名前の由来は細長く腹が狭い「狭腹」からと言われていますが、サゴシも同じように「狭腰」からとされています。

カラスミといえばボラの卵巣ですが、中国からの伝来当時はサワラの卵巣(真子)を原料として作られていました。色合いも、現在の物よりやや黒ずんでいたようで、一般的なボラのカラスミより粒が大きいため、卵の食感をより楽しむことができたようです。
肥前国(現在の長崎県および佐賀県)の名護屋城(現在の佐賀県唐津市)を訪れた豊臣秀吉が、あまりの美味しさに「これは何か?」と長崎代官であった鍋島信正(佐賀藩の礎を築いた名将)に尋ねたところ、当時、下等な魚である“サワラの卵”と答える訳にもいかず、その形が唐(中国)の墨に似ていることから「カラスミ」と答えたことに由来します。

江戸時代、肥前のカラスミは、越前のウニ、三河のコノワタ(ナマコの腸の塩辛)とともに、「天下三珍」と呼ばれていました。ちなみに、ボラの卵で作るようになったのは延宝3年(1675年)に長崎万屋町の魚屋・高野勇助が長崎県・野母崎付近の海域で豊富に漁獲されるボラの卵巣を塩漬けにしたカラスミを作るようになり、野母崎のカラスミが有名になりました。

サワラの代表的なご当地料理、岡山編:岡山ばらずし

ばらずしってどんな料理?

サワラ好きで有名な岡山県民の春の定番。

岡山ばらずしとは、岡山県を代表する郷土寿司で、農林水産省選定「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれています。サワラの名産地である岡山の「ばらずし」は関東の「ちらし寿司」と似ていますが、「ちらし寿司」が酢飯の上に具材を散らすのに対して、「ばらずし」の方は魚のつけ酢と椎茸や切ったかんぴょうの煮しめなどをご飯に混ぜ込む「混ぜご飯」になっており、一つひとつ味付けした具材をさらに飾ります。具材は家庭や地域によってさまざまですが、錦糸玉子、人参、酢れんこん、えんどう、ちくわ、かまぼこ、豆腐、茹でたタコ、海老、焼あなご、イカ、サワラ、ままかりなどです。春は必ずサワラが入るのが定番になっています。「岡山ずし」「備前ずし」「ばらずし」「まつりずし」とも呼ばれますが、実は岡山駅の駅弁で有名な桃太郎のイラストが描かれた駅弁、ピンクの桃型の器でおなじみの「まつり寿司」は、『三好野本店』社の登録商標となっています。つまり「まつり寿司」は商品名なのです。

ばらずしに必要な材料は?(5人分)

すし飯     5合
たけのこ水煮 小1本  
焼ちくわ   2本
わらび     25g
にんじん  1/2本  
ごぼう     1/2本  
ふき     25g
あなご     小2尾
絹さや     10枚
卵     5個
しいたけ     5枚     
サワラ     200g(切り身2つ)
エビ     5尾     
イカ     1杯     
も貝     250g
ままかり(酢〆) 10枚
かすご(酢〆) 5枚
高野豆腐     2個
黄にら     2束     
れんこん(酢漬け) 1/2本    
たこ     250g(足1本)
紅しょうが 適量   
生姜     適量     
海苔     適量
大根     適量     
番茶     適量
砂糖      

しょうゆ
薄口しょうゆ
昆布だし

重曹

ばらずしの作り方

1.すし飯の材料、下記具材を準備する

野菜煮を作る。
茹でた竹の子(水煮でも可)を縦1/4に割り、1mm程度の厚さに切る。
焼きちくわは縦半分に切り、半円状のものを1mm程度の厚さに切る。
わらびは重曹小さじ1を溶いた熱湯に1時間漬け(水煮でも可)1mm程度の厚さに切る。湯の量はわらびが浸る程度で良い。
にんじんは皮をむき縦半分に切り、1mm程度の厚さに切る。
ごぼうは泥をよく洗い流してから包丁の背で皮をそぎ、笹がきにする。
ふきは5分程塩ゆでし流水にしばらくさらし、冷めたらスジをとり、1mm程度の長さに切る。

これらの具材を砂糖100g、塩小さじ1、薄口しょうゆ大さじ2、昆布だし400ccを合せたもので15分程弱火で炊く。炊き上がったらザルにあげ、水気を切っておく。
野菜煮とは別に、腹開きにした活あなごは強火でから焼きし、タレ(醤油1、砂糖大さじ2)に漬けてからとろ火で焼く。冷めたら5mm幅くらいに切る。

2.飾る具の下ごしらえをする

◇青みの絹さや
ヘタを折りながらスジをとり、塩茹でする。茹で過ぎると色が悪くなるので注意する。
◇黄色の錦糸卵
卵1個に対し砂糖大さじ1、塩小さじ1/2を加え溶きほぐしたものを軽く焼き、まとめて千切りにする。1個で薄焼き卵3枚が目安。
◇椎茸の含め煮
干し椎茸を400ccの水でひと晩かけて戻し、戻し汁200ccと同量の昆布だし、醤油15cc、砂糖25gで煮含める。
◇旬のサワラ
ひと口大にそぎ切りにしたサワラへひと塩して1時間ほど置き、水でよく洗ってから酢で再度洗う。酢200cc、砂糖大さじ1の割合で合わせた調味酢に漬ける。最低ひと晩は漬けたほうが酢になじんで美味しくなる。
◇赤みのエビ
中まで火が通る程度に塩ゆでする。茹でたら皮をむき、半分に切る。
◇歯ごたえのイカ
イカは胴の薄皮をむき、縦四つに切る。それぞれ鹿の子5mm幅くらいに包丁目を入れ2cm幅程度の短冊切りにし、軽く塩茹でする。
◇も貝
1度茹でこぼしたものを酒400cc、みりん50cc、砂糖大さじ4で炊く。その際生姜スライスを少々入れると良い。炊き過ぎると硬くなるので注意する。
◇ままかり(酢〆)
切り身の酢〆を用意する。生のものが手に入った場合は頭と内臓をとり、うろこを落としてひらいたものをひと塩し30分程おいたものを水で洗い、酢水で洗い、甘酢(酢200cc、砂糖大さじ1)に15分漬ける。
◇かすご(酢〆)
切り身の酢〆を用意する。生のものが手に入った場合はままかりと同様の下処理を行い、3枚におろしてからひと塩し30分程おいたものを水で洗い、酢水で洗い、甘酢(酢200cc、砂糖大さじ1)に15分漬ける。
塩し30分程おいてから水で洗い、酢水で洗い、甘酢(酢200cc、砂糖大さじ1)に15分漬ける。
◇高野豆腐
70~80度のお湯で20分間かけ戻し、水のなかでよく絞り2番だし400cc、砂糖大さじ3、塩小さじ1、酒大さじ1、薄口しょうゆ小さじ1を弱火で煮含める。
◇黄にら
たっぷりのお湯を沸かし塩ひとつまみ入れ、さっと湯がき冷水にとってからよく絞り、2cm幅に切る。
◇れんこん
皮をむいたものを酢水に漬けアクを抜き、1mm幅程度の厚さに切る。ひとつまみの塩を入れたっぷりのお湯でさっと茹で、甘酢(水400cc、酢大さじ1)に20分程漬けこんだ後、輪切りにする。
◇たこ
塩ひとつまみで塩もみし、流水で洗いながらぬめりを取る。たっぷりのお湯で大根の切れ端と番茶少々とともに20分程茹でてから、3mm程度の厚さでひと口大に切る。
◇海苔
刻み海苔を適量用意する。

3.すし飯を作り、盛り付ける

ご飯はだし昆布を入れて通常よりかため炊く。水を10%ほど少なめにすると良い。
酢1/2カップ、砂糖100g、塩5gを弱火にかけながらまぜ、合わせ酢を作る。サワラの漬け汁を合わせ酢の代わりとしても良い。
炊きあがったご飯からだし昆布を取り出し、熱いうちに飯台にあけ、合わせ酢をふりかける。うちわで仰ぎながら、しゃもじで切るように手早く合わせる。
すし飯が温かいうちに刻んだ穴子を混ぜ込み、香りと旨みをすし飯へ移す。
1の野菜煮をすし飯に混ぜる。飯粒をつぶさないように両手を使って優しく混ぜ込む。
2で用意した具を飾り付ける。はじめに海苔を散らしてから錦糸卵を全面に敷き、イカ、エビ、サワラ、椎茸、絹さやを彩りよく賑やかに飾りつける。最後に紅しょうがを添えて完成。

ばらずし、発祥の由来とは?

備前岡山藩主・池田光政の倹約令「一汁一菜令」を逃れる方法で生まれた

諸説ありますが、江戸時代の初期に備前で大洪水があり、備前岡山の藩主・池田光政が、庶民の贅沢を禁じて質素倹約を奨励しました。食膳は一汁一菜とする倹約令(一汁一菜令)に対して、いろいろな具を乗せても「一菜」とした(今の丼のイメージ)庶民の知恵から、大きめの具を寿司桶の底に敷き、それらを覆うように細かい具の入った酢飯で覆って食事の直前に桶をひっくり返して食べたり、または酢飯の中に多くの具を直接混ぜん込み食べていたとされるのが定説ですが、2017年4月8日の毎日新聞によりますと、この光政原因説を「根拠なし」とする報告もあるようです。いずれにせよ今ほどバラずしが豪華になったのは、明治になってからと言われています。

ばらずしはご当地ではどんな時に食べられる?

岡山県の一般家庭でもよく作られるばらずしは、お正月や祭事、来客のもてなしなどとして出されることが多いようです。「ばらずし」は各家庭や店、季節によって食材が異なりますが、中国山地と瀬戸内海に挟まれ、自然に恵まれる岡山県では山の幸や海の幸を使った日本一豪華なちらし寿司ともいわれるほど贅沢な料理です。その贅沢さはかつて「すし一升、金一両」ともいわれるほどで、数多くの食材を使って手間をかけて豪華に作られました。現在でもその豪華さは健在です。

ばらずしの栄養価・効能は?

ばらずしは、新鮮な海の幸、山の幸を酢飯に混ぜた華やかな料理です。そしてばらずしにのせるネタは、酢でしめたサワラの切り身をはじめ、人参、れんこん、えんどう、タコ、海老、あなご、イカ、ままかりなどが定番です。サワラは良質のタンパク質やビタミンB2、鉄分、カルシウムの吸収を促進するビタミンDが豊富です。また、体内の余分なナトリウムの排泄を促し、血圧の上昇を抑えるカリウムが100g中490mgと人参やニラ並みに豊富です。サワラはサバ科の青魚で、サバやイワシを餌とするため、高コレステロールを改善するEPA、頭の働きを良くするDHA、タウリンなどの栄養素もつまっています。サワラ以外の魚、野菜の栄養もふんだんに含まれるばらずしはまさに栄養満点のごちそうです。

日本一、サワラを食べる岡山県

大阪、長崎、島根などでも「沖すき」「いり焼き」「へか焼き」などサワラの伝統料理がありますが、岡山ほどサワラを好む地域は他にありません。瀬戸内地方では、昔から“サワラが来ないと春が来ない”と言われてきました。魚偏に春をあてた「鰆」という字も、産卵期の3~5月にサワラが瀬戸内海に群れをなして出現する「春告魚」だったのです。京都府、福井県など日本海側各地や、長崎県や瀬戸内など日本各地で漁獲されるサワラですが、消費量は岡山県が全国の約3割を占め日本一です。「サワラの値段は岡山で決まる」と言われており、市場の取扱高もトップで、全国で水揚げされた多くの新鮮なサワラが日生港をはじめ岡山県の市場に集まってきます。江戸時代、八代将軍吉宗の時代に各藩の領内産物帳というものがあり、備前国備中国の産物帳には「当地では『馬鮫魚(※当時の呼び名)』なる魚が豊かである。」と記されています。当時から岡山にはサワラがたくさん集まっていた、漁獲されていたのですね。

ばらずしに乗っている海鮮の具材を醤油につけて食べるのが当たり前のようになっていますが、醤油が使われだしたのは江戸時代中期からです。それ以前の調味料といえば「煎り酒」です。煎り酒はお酒と出汁で梅干しを煮切ったもので、お寿司のタレとして使っていたそうです。僕もお刺身を食べる時に、煎り酒を付けて食べたりもします。特にマダイ、ヒラメなどの白身魚との相性は抜群です。皆さんも是非一度、お試しください。自分でも簡単に作ること出来ますよ。

サワラ漁の方法は?

サワラはとても身割れのしやすい魚ですので、丁寧に漁獲されたものでないと刺身に向きません。定置網、はえなわ漁、釣り物であれば良いですが、刺し網漁のものは体に輪のような跡が残ってしまい、鮮度が良くても身割れするものが多いです。そのような場合は、西京漬けなどのものになります。サワラよりも魚体が小さいサゴシやヤナギ(関西)、サゴチ(関東)は市場への流通量は多いですが、脂の乗りのよいサワラの方が人気があり、価格も高くなります。特に新鮮なサワラは身が引き締まってかたく、刺身は「サワラの刺身は皿までなめる」と言われるほどの美味しさです。そんなサワラ好きな岡山県では、サワラの漁獲量は昭和61年をピークに急激に減少しました。減少したサワラを増やすために、屋島栽培漁業センターで種苗生産された全長35mmのサワラ種苗を全長100mmになるまで育ててから放流したり、9月1日~11月30日の間のサワラ流網漁を禁止したりして、サワラ資源の回復に努めています。

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